中村一義 @ 中野サンプラザ

中村一義 @ 中野サンプラザ
稲妻のようなライブだった。1曲目、まさかの“天才とは”で幕を開けた、今年一度きりのワンマンライブ。中村一義という名の閃光が走り、中村一義という名の雷鳴が轟いた2時間。このシンガーが、いかに格別な存在であるかをまざまざと見せつけたステージだった。

なにしろ、今年たった一度のワンマンライブである。しかも、バンドメンバーは、盟友・町田昌弘(Gt/Cho)をはじめ、三井律郎(Gt)、高野勲(Key)、TOMOTOMO Club(Ba)、マシータ(Dr)、あずままどか(Cho)と、この日限りのスペシャル布陣。否応にも、期待に胸が躍る。が、その期待をはるか凌駕する場所に、中村一義はいた。しつこいようだが1曲目、“天才とは”である。中野サンプラザの観客が、仰天、のち雀躍だ。みんなどれくらい、あのアルバムを、大切に聴いてきただろう。どれだけあのアルバムで彼の才能に驚き、その歌を愛してきただろう。ステージで歌っているのは、中村一義。もうそれだけで、会場中が感極まってしまう。

大歓喜の中、二曲目、“まる・さんかく・しかく”である。まさかの『金字塔』二連発だ。中村は両手で「丸」「三角」「四角」を作りながら、爆笑して歌っている。「中村一義アワーにようこそ! 今夜限りのスペシャルバンドと、僕の名曲の数々を(笑)、皆さんと楽しみましょう」とのMCをはさみ、『金字塔』三連発“ここにいる”へ。むろん名曲中の名曲だが、クラシックと呼ぶにはなんとも爽快だ。中村の強く、優しく、鋭い歌声に、心臓が掴まれる。『金字塔』のみずみずしい感動は、16年が経った今でも少しも色あせてはいない。

高野勲のピアノの音色からスタートしたのは、100s『世界のフラワーロード』収録のナンバー“フラワーロード”。荘厳さと親密さを併せ持った中村の歌声のまぶしさが、観客の胸を照らしていく。人生を丸ごと抱きしめてしまうような温もりあるサウンドに、感情が臨界点を超えて、涙を流す人、続出。さらに感動に追い打ちをかけるように“素晴らしき世界”だ。本当にこの人の歌は、とてつもない求心力を持っている。極めつけは、“魂の本”。嘘みたいな名曲の嵐に、中野サンプラザのホール中が歓喜に包まれる。

中村一義 @ 中野サンプラザ
ここで、中村と町田を残し、一旦バンドメンバーが退場。「ライブでやったことのない曲、目白押しだったね」(町田)、「“フラワーロード”とか、普通に歌いながら泣きそうになったもん」(中村)と2人で和気あいあいと語り合いつつ、「まちなかオンリー!」ツアーのコンビによる、アコースティック・ステージがスタートする。“愛すべき天使たちへ”では、ラストのブレイクのところで中村が「みんな、愛してるよ!」と絶叫(本人曰く、愛の告白らしい)。さらに、シャープでシリアスな響きの“セブンスター”を続けると、続くは観客の心を鷲掴みした“笑顔”。彼のファンの多くがずっと心に大切に抱いてきた曲だ。町田のギターの音色と共に、中村の甲高い歌声が、柔らかな時間を生み出していく。中野サンプラザを占めた感情は、嬉しさとか、喜びとかを超えた、特別なものだった。中村一義を好きで良かったと、会場にいた全員が心の底から思ったことだろう。

「(“笑顔”を)作った時は、もっと歌うことになると思ったんですけど、『博愛博』以来、まさかの2回目(笑)。もっとやろうよ! 次は今年一度の新曲です。もっと書こうよ、俺!」と自分でツッコミを入れつつ、“魔法をかけてやる!!”に。観客が手と足で刻むリズムのせて演奏し、さらにコーラスを歌う。演奏を終えると「みんな、うまい! 一緒にレコーディングしよう!」とすっかり中村一義も満足のようだ。

再びバンドメンバーをステージに迎えると、サビのコーラスを観客が大合唱した“ジュビリー”へ突入。歌で圧倒するだけじゃなく、こうやって曲の中に観客を巻き込んで楽しませてしまう懐の深さが今の中村一義にはある。会場に広がる多幸感を、続く“空い赤”で一転させると、『金字塔』のラストで永遠の輝きを放つ大名曲“永遠なるもの”に。「今年一、感情込めました。祈りを通り越して、呪いかもしれないけど(笑)、幸せであるようにって」と後で振り返った“永遠なるもの”はもう、意地でも人生を肯定してやろうという中村一義の全身全霊の祈りが、神々しいほどの光を放っていく。ライブのクライマックスとも言える、歓喜の瞬間だった。

ラストは“ショートホープ”、“1,2,3”、“キャノンボール”と怒涛のロックンロール三連続で、爆発的な歓喜を会場に生む。ステージで躍動する中村の歌声もものすごいが、観客の興奮を力強く牽引するバンドサウンドの迫力も凄まじい。あずままどかはコーラスをしながら、ステージで弾けまわっていて、見ていて楽しい。アンコールで再びステージに登場すると、「じゃあ、デビュー曲、歌っちゃいましょうか」と“犬と猫”を披露。その後、突発的に発生した町田と三井によるギター対決をはさみ、「暴れるぞ〜!!」と最後は“ロックンロール”だ。豪快なロックンロールで今年一度きりのライブをド派手に飾る。名曲という名曲をぶちまけて、ハイライトに次ぐハイライトのセットリストで稲妻のように駆け抜けたステージは、この上なく濃密で至高なひと時だった。きっとこの先も、この人は観客の心の特別な場所に居続けるんだろう。一度きりと言わず、何度だって観たい、もっともっとたくさんの人に届けてほしいと心から思う、中村一義アワーだった。(大山貴弘)
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