5月にリリースされた『Now Album』を引っ提げたHEY-SMITHの全58本(!!)のツアーもいよいよ佳境となり、ファイナル・シリーズへ突入。その中でも、10月27日に行われたSHIBUYA-AX公演は、単なる東京公演とだけは位置づけられないスペシャル感に満ちていた。というのも、彼らが度々影響を公言してきた大先輩であるKEMURIがゲストだから。昨年KEMURIが再結成を果たさなかったら、もちろん実現し得なかったこの対バン。ソールドアウトを果たした会場は、開演前から興奮でギッチギチに満たされていた。
先攻はKEMURI。まずは“New Generation”。そして、“Workin' Dayz”。容赦無いキラーチューン攻め! フロアのノリはあの頃を踏襲した感じとは少し違っていて、如何にヘイスミの客層が若いかがわかる。そんな中で、伊藤ふみおは、両者を繋げた“SKA”の文字が描かれたTシャツ姿で、飛び跳ね、ピースをかざし、ポジティブに突っ走っていく。「今日はヘイスミとこういう場で出来ることを嬉しく思います。以上!」と挨拶もそこそこに、どんどん曲を畳み掛け、あっという間に終盤へ。“P.M.A(Positive Mental Attitude)”では、2階も反射神経が発揮されたような盛り上がりで、ふみおのアッパーなスカダンスも炸裂。さらに“Mr. SMILING”では、東京スカパラダイスオーケストラの加藤隆志が飛び入りし、笑顔で弾きまくる。ラストは、そのまま加藤と一緒に、待ってましたの“Ato-Ichinen”! 途中でヘイスミの猪狩が呼び込まれてコーラスを披露。最後は、音楽って世代とか時間とか関係ないよなと思わされてしまうようなグッシャグシャに混ざり合った状態に持っていってしまったところは、流石の一言だった。これだけ盛りだくさんなライヴを見せられて、どうする、ヘイスミ!?
グリーン・デイやバッド・レリジョンなどの名曲が流れるBGMがブツリと切れると、スクリーンに映像が。長いツアーを総括していき、終わるとでっかいバックドロップ(猪狩曰く、トレンドを取り入れて迷彩にしたんだそう。笑)が露わになる。そして、「アーユーレディ!?」から演奏へ――もう、その後は、ステージもフロアも熱狂の渦。満とIoriのホーン隊は、休む間もなく飛び回り吹き倒し、猪狩とMukkyは骨太なアンサンブルとパワフルな歌声を轟かせ、その全てをTask-nはがっちりと支える。それに対して、フロアは洗濯機状態でコールする。バンドの頑なな意思と、時代の流れが溶け合って、とんでもないことが起きてるな。これは!と感じる光景が眼前に広がっていた。後で猪狩は「演奏は、このツアーで稀に見るくらいヘタクソ」と苦笑いしていたし、確かに粗も目立ったが、その全てが包み隠さぬ彼らの感情そのものだったと思う。
『Now Album』は、ライヴをイメージ出来る作品だったが、その現場はイメージを超えていた。シンガロングやハンドクラップ……猪狩は“Download Me If You Can”の前に、「この空間をダウンロード出来るもんならしてみろ!」と言っていたけれど、まさにここでしか味わえない熱や匂いがあった。そして、インタヴューで猪狩が、学生時代に週4日もライヴハウスに通っていたと話していたことを思い出した。彼自身が、ライヴハウスで起こるドラマを知っているから、ステージに立っても、それを体現できるのだろう。また、楽曲にも、その日々は結実していると改めて思った。聴いていると、様々な先人たちの影響が感じられるから。でも、それが借り物ではなくなっているのは、彼らの強気の姿勢とも繋がってくるけれど、凄くエキサイティングな形で落とし込まれているからだろう。KEMURIに対しても猪狩は「高校の時からKEMURIが好きだったから、今日の事実を信じ難い……でも、胸借りるつもりで、倒しに来ました!」と宣言。そう、ロックバンドはこうじゃなくっちゃ。そして、「俺はバンドマンが一番カッコいい職業だと思う。バンドやってる奴おる?(手を挙げる数名)。絶対、対バンしような!」と呼び掛けた。とても、美しい場面だった。
まだツアーは仙台と大阪でのライヴが残っているから、詳しいセットリストを書くことは控えるけれど、少しだけ触れておきたいことがある。それは、『Now Album』のラストを飾った“Journey”について。演奏する前に猪狩はこんなことを言った。会う人会う人にパワーをもらったツアーだった。人のために歌ったことはないけれど、パワーをもらっていなかったら、このステージには立てていない。“Journey”は、全個所で演奏して気持ちを載せてきた。特にこれから向かう仙台に対しては、お前らの気持ちを載せて欲しい――そして「お前らの曲や!」と叫んで演奏を始めたのだ。これこそ、あまたのライヴを重ねるバンドだけが出来る表現。そして、「自分たちの曲」と思わせる説得力。ヘイスミの魅力が凝縮された時間だったと思う。これから仙台、大阪のライヴに行く人は、この曲からさらにずっしりした気持ちが感じられるはずだ。
アンコールでは猪狩が「俺だって横浜アリーナ(Bowline2013)行きたかったよ! でも、こっちの方が楽しいからな!」とキッズな心を垣間見せながら、止まぬ声援に応えてダブルアンコールまで完遂。一度目のアンコールでは満とIoriが、二度目のアンコールでは猪狩がフロアに飛び込み、バンドもキッズも出し尽くしてフィナーレを迎えた。「俺たちはコンプレックスを解消することは出来ない。自分で乗り越えるしかない。でも、俺たちはいつでも手助けはする。お互いしんどくなったら、またライヴハウスで会おう」――猪狩はこう語り、感動的な“Goodbye To Say Hello”へと繋げた。ライヴハウスで育ち、こんなにも大きくなった彼ららしい、純粋な絆で会場は一つになっていたと思う。このまま、まだまだ、彼らの旅路は続いていく。(高橋美穂)
HEY-SMITH w/KEMURI @ SHIBUYA-AX
2013.10.27