Hostess Club Weekender 2日目 @ 恵比寿ガーデンホール

Hostess Club Weekender 2日目 @ 恵比寿ガーデンホール - DEERHUNTER All pics by KAZUMICHI KOKEIDEERHUNTER All pics by KAZUMICHI KOKEI
第6回目の開催を迎えたインディ/オルタナティヴ・ミュージックの祭典、Hostess Club Weekender。2日間の初日には、テンプルズ、デロレアン、セバドー、オッカーヴィル・リヴァー、ニュートラル・ミルク・ホテルという古今東西のギター・バンドが共演を繰り広げた(レポートはこちらをご覧ください→http://ro69.jp/live/detail/93101)。そして迎えた2日目の模様を、ダイジェストでお伝えしていきたい。

Hostess Club Weekender 2日目 @ 恵比寿ガーデンホール - AUSTRAAUSTRA
13時にトップ出演を果たしたのは、トロントのブロンド・ビューティーにして才媛、ケイティ・ステルマニス率いるアウストラだ。今年、セカンド・アルバム『オリンピア』をリリースしている。ケイティ自身を含めキーボード×3、ドラムス×1という編成で、新作の冒頭を飾る“What We Done?”を皮切りにパフォーマンスをスタート。エレクトロニック・ノイズ混じりのシンセ・サウンドをたなびかせながら、ケイティの美しくエモーショナルな歌声を軸に楽曲が浮上してゆく。インディにしてウェルメイドな完成度を目指すプロダクションは現代的で、煌びやかなエレクトロニック・サウンドと、ディレイを効かせたピアノなどクラシカルな旋律が分け隔てなく手を取り合うサウンドスケープだ。そしてポスト・ダブステップ世代を地でいくグルーヴを、ときに生々しく悲痛な、表現力豊かなケイティの歌声が追い越してゆく。シングル曲“Forgive Me”はもちろん、“Hurt Me Now”で締め括られるという新作の流れを踏まえたライヴ。堂々とステージを楽しみ尽くすように自由なダンスを披露していたケイティは、最後に膝から崩れ落ちて床にへたり込む、という劇的なパフォーマンスも見せていた。

Hostess Club Weekender 2日目 @ 恵比寿ガーデンホール - OMAR SOULEYMANOMAR SOULEYMAN
2組目には、今回のラインナップ、というかHCWの歴史の中でもかなりの異彩を放つ、飛び道具的アクトのシリア発シンガー兼プロデューサー=オマール・スレイマンが登場だ。個人的にはアルバム『Jazeera Nights~』に触れて以来、新作『ウェヌ・ウェヌ』も含めてめちゃめちゃ期待していたのだが、半分は期待通り最高、半分は思いっきりズッコケた。まず、ステージが幕を開けると、そこにはクーフィーヤ(頭巾)&サングラスを身につけたオマールと、キーボード奏者が1名のみ。で、ダブケと呼ばれる中東のパーティー・ミュージックと、バウンシーなテクノを融合させたけたたましい楽曲の数々を放つ。2台のシンセを操るキーボード奏者は、同期のビートを繰り出しながらエスニックな旋律を次々に奏でたり、或いはパーカッション・パートも鍵盤で叩き出したりと頑張っているのだが、何しろオマール自身が、歌もそこそこに手拍子を打ち鳴らしたり、掛け声でオーディエンスを煽り立てるほうにご執心。口にすることはと言えば「ハロー」と「サンキュー」ぐらいで、楽曲の合間に「次の曲はまだかな?」みたいな感じでキーボード奏者の方を見つめている姿にもめちゃめちゃ笑った。音の質感はチープなのだが、めくるめく旋律の波状攻撃とダンス・ビートのお陰で、フロアは「サイコー!」と声も上がりながら一面が激しく波打つ。伝統を暴力的に振り回し、ポップ・ミュージックのしなやかな生命力を伝えるアクトだった。

Hostess Club Weekender 2日目 @ 恵比寿ガーデンホール - FOUR TETFOUR TET
さて3組目には、先のオマールの『ウェヌ・ウェヌ』をプロデュースしたフォー・テットが登場。とは言え、オマールの大味な楽しさとはまるで違う、緻密なプロダクションと繊細な感情表現が織り込まれた、絶大な安心感を感じるパフォーマンスであった。昨年の『ピンク』、そして今年の新作『ビューティル・リワインド』をフィーチャーした内容で、コズミックに立ち上がる“Ba Teaches Yoga”から、オリエンタルなメロディが溢れ出す“Jupiters”と、どちらかと言えば美麗なエレクトロニカ作の『ピンク』とダンス性が強化された『ビューティフル・リワインド』が絶妙なブレンドでステージを形作ってゆく印象だ。フォー・テット流のミニマルなディスコ・ダブ“Our Navigation”で、ブレイクを組み込みながらダンス空間を演出してゆくライヴ・セットとしての手応えも素晴らしかった。かっちりと作り込まれた独創的なエレクトロニック・ミュージックと、そこに確かな人肌の温もりを込めてゆく彼の手捌きからは、まだまだ学べるものが多い。改めてそう感じずにはいられない。もちろんダンス・フロアにこそ相応しいサウンドではあるが、HCWの、アットホームな空間でじっくりと堪能するフォー・テットというのもまた良い。

Hostess Club Weekender 2日目 @ 恵比寿ガーデンホール - JUANA MOLINAJUANA MOLINA
そしてこの日のマイ・ベスト・アクトだったのが、ブエノスアイレス出身のフアナ・モリーナである。女優としてのキャリアも持つ51歳のベテラン・アーティストで、アルゼンチン音響派の中核として広く知られるようになったのは10年近く前の話だ。なのだが、ステージ下手からキーボード兼ギタリスト、中央にギターと鍵盤を操りながら歌うフアナ、そして上手にドラマーと3人が一直線に並んで新作『ウェンズデー・21』のタイトル曲から切り出されるミニマルでストイックなパフォーマンスは、紛れもなくエレクトロニック・ミュージックの時代を通過し渡り合おうとする、現役感バリバリのロックであった。ブルージーなグルーヴとスペイン語のウィスパリング・ヴォーカルで転がす“Eras”にしても、キャッチーなハーモニーが溢れ出す“Lo Decedi Yo”にしても、リラックスした様子でありながら無駄な音が一つもない。その上で、ドラマーは素手でタムを叩いたり各種パーカッションを駆使したり、フアナ自身もライドシンバルを鮮やかに打ち鳴らしてダンス性を加速させるなど、自由闊達なアイデアが盛り込まれて見た目にもワクワクさせられるのだ。「持ち時間はあとどれくらいかしら? 6分!? 15分ね(ハンドサインだったのだろうか)。前に約束したのに、日本語を勉強しなかったわ。ごめんなさい(笑)。『NARUTO -ナルト-』のファンはどれぐらいいるの? ええ!? 一人しかいないの? NARUTOオオオぉぉ!!」と親日家ぶりを発揮してからの、フアナ一人によるループや多重コーラスを駆使した即興的パフォーマンスには大喝采が贈られ、笑顔のフアナは踊るようにステージから去っていった。

Hostess Club Weekender 2日目 @ 恵比寿ガーデンホール - DEERHUNTERDEERHUNTER
さあ、2日目ヘッドライナーは、ディアハンターである。金髪(銀か?)のウィッグを用いた、細身のブラッドフォード・コックスがゆらゆらと歌い出すオープニング・ナンバーこそ“Earthquake”だったけれども、パフォーマンスのモードとしては完全に背徳的で甘美、グラマラスなロックンロールの新作『モノマニア』のそれと言える内容であった。トリプル・ギターが荒れ狂いながらその奥行きのあるサウンドスケープを描き出し、「ただいま。いつもサイコーの場所だよ」と日本のトイレの素晴らしさにも触れながら、笑いを誘うブラッドフォード。“Blue Agent”辺りのルーズで気怠いメロディを、自信満々に、不敵に転がす彼の姿は、完全にロック・スターだったと思える。中盤のハイライトは、T・レックス風のブギーなロックに憎めないチャーミングな夢想が溢れるナンバー“Dream Captain”から、“Nothing Ever Happened”の暴風圏ギター長尺ジャムだ。メンバー全員がオーディエンスと一緒になって興奮を味わい尽くし、轟音のレイヤーを形作ってゆく。音楽的な表現だけではない、光景として、コミュニケーションとして美しいロックンロールが、そこにはあった。終盤には“Back to the Middle”なども披露してノイズのフリーク・アウトで本編を締め括り、まだその残響が鳴り響いているうちにアンコールへと向かう。そして渾身の“Cover Me (Slowly)”から“Agoraphobia”と、ロック・ファン心を揺さぶりまくる展開で最高のフィナーレを描き出してくれた。ロックンロールにしか救えないものがあるからロックンロールを鳴らす、余りにもロマンチックなステージであった。

ワールド・ミュージック、エレクトロニック・ミュージックの現在もきっちり視野に収めながら、ヴァラエティ豊かなパフォーマンスが繰り広げられた2日間。なお、次回のHostess Club Weekenderは、2月15日及び16日、今度は間が約2か月という短いタームで、新木場スタジオコーストに舞台を移して開催される。ザ・ナショナルやモグワイといった、期待してもし過ぎることはないライヴ・アクトをはじめ、話題を集める若手たちも次々に出演が決定しているので、ぜひチェックしていただきたい。(小池宏和)
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