藤山一郎“東京ラプソディ”、高峰秀子“銀座カンカン娘”から幕を開けたステージは、その後コーナーごとにテーマ立てて展開。「GS・ビート歌謡対決」「フォーク・ソングからニュー・ミュージック対決」「バブルからの贈り物…対決」「昭和歌謡大ヒットメドレー対決」と年代別に釘打って、ザ・タイガース“銀河のロマンス”、イルカ“なごり雪”、尾崎豊“I LOVE YOU”、高橋真梨子“桃色吐息”、西郷輝彦“星のフラメンコ”、由紀さおり“手紙”、西城秀樹“傷だらけのローラ”……とあらゆるタイプの楽曲を縦横無尽に歌い上げていく。「今回のために200曲ほどリストアップして聴いたら、今まで知らなかった名曲も沢山あって。最初(セットリストが)100曲ぐらいになって収拾がつかなかった」と桑田も言っていた通り、押しも押されぬ名曲の連続。80年代生まれの筆者にとっても、戦後の日本歌謡の輝かしい軌跡を見せつけるようなセットリストは、それだけで興奮を禁じ得ないものだった。が、そんな中でも胸を打ったのは、わずかなMCを挟むのみで、ほぼノンストップ&ステージ出ずっぱりで歌を届けていく桑田の姿。まるで自身の曲のようにすべての歌を情感たっぷりに歌い上げ、観客の心を震わせていく彼のヴォーカリゼーションは、そっくりそのまま「日本歌謡の奇跡」と呼んでしまいたくなるほどの、圧倒的なパワーを持っていた。
それだけでなく、日本きってのエンターテイナーぶりを見せつける、遊び心あふれる仕掛けも満載。“東京砂漠”では、桑田が内山田洋とクール・ファイブのメンバー全員になり切った映像で笑いを取ったかと思いきや、ドリフ・メドレーでは、なんとサザンオールスターズのメンバーがドリフに扮して登場! その後の平原綾香“Jupiter”では、すべての客席に事前に配布されていたサイリウムが一斉に点灯し、ピンクや赤のレーザー光線が飛び交う場内は瞬時に宇宙空間へと誘われる。さらにaiko“カブトムシ”、奥田民生“イージュー★ライダー”などで構成された「やっぱり現役も負けてられないよね‼ 対決」を経て、「ロックスター対決」の沢田研二“TOKIO”では、パラシュートを背負った桑田が空中遊泳を披露! そのまま小泉今日子“なんてったってアイドル”vs郷ひろみ“男の子女の子”の「スーパーアイドル対決」、山本リンダ“どうにもとまらない”vsレディー・ガガ“Born This Way”の「R-15指定! 愛と欲望の守護神対決」で本編ラストを迎えるまで、ユーモアもエロスもすべてが歓喜となって押し寄せる極彩色のステージで、完全無欠のエンターテインメント・ショウを完遂させたのであった。
80年以上も前の曲から現在の曲に至るまで、そのすべてを「今の時代に響く歌」として届けたこと。実に50曲以上にも及ぶ長丁場を、4日間にわたってひとりで務め上げたこと。映像、ダンサー、舞台美術、特攻などあらゆる要素を駆使して、濃密かつハイレベルなショウを創り上げたこと……そのすべてが破格だし、それを闘病生活を送っていた桑田佳祐が行っていると思うと、改めて感服する。何より素晴らしいのは、Act Against AIDSのコンサートでありながら、それでもアイデアとユーモアの限りを尽くして届けられる桑田の歌とパフォーマンスは、それだけで人々の心を元気にし、未来への前向きな一歩を踏み出させる圧倒的な力を持っている。改めて稀有な存在だと思うし、来年以降もさまざまな手法で我々を元気にしてほしい。そんな想いに胸が躍った一夜だった。(齋藤美穂)
セットリスト
1. 東京ラプソディ
2. 銀座カンカン娘
3. 銀河のロマンス
4. 虹色の湖
5. スワンの涙
6. 涙の季節
7. 小さなスナック
8. 涙のかわくまで
9. エメラルドの伝説
10. 京都の恋
11. 若者たち
12. この広い野原いっぱい
13. 風
14. なごり雪
15. 22才の別れ
16. わかれうた
17. I LOVE YOU
18. 恋におちて –Fall in love-
19. リバーサイドホテル
20. 桃色吐息
21. 遠く遠く
22. 春よ、来い
23. グッドナイトベイビー
24. 小指の想い出
25. 星のフラメンコ
26. 太陽がくれた季節
27. 傷だらけのローラ
28. 手紙
29. 港町ブルース
30. 恋の奴隷
31. シクラメンのかほり
32. みずいろの手紙
33. 東京砂漠~おいしい秘密
34. 北の宿から
35. 見上げてごらん夜の星を
36. 喝采
37. ドリフ・メドレー
38. Jupiter
39. カブトムシ
40. ありがとう
41. イージュー★ライダー
42. やさしくなりたい
43. 六本木心中
44. TOKIO
45. なんてったってアイドル
46. 男の子女の子
47. どうにもとまらない
48. Born This Way~東京五輪音頭~Born This Way
アンコール
49. SOMEDAY
50. ひだまりの詩
51. アンパンマンのマーチ
52. 愛のさざなみ
53. 帰ろかな
54. 川の流れのように
55. 笑って許して