桑田佳祐が「一緒にやろう2020」応援ソング“SMILE〜晴れ渡る空のように〜”であらゆる垣根を超えたその素晴らしさについて

桑田佳祐が「一緒にやろう2020」応援ソング“SMILE〜晴れ渡る空のように〜”であらゆる垣根を超えたその素晴らしさについて
「日本が、被災地が、地球の未来が、明るく元気でありますように」——民放テレビ5系列114局による共同プロジェクト「一緒にやろう2020」の応援ソングとして桑田佳祐が手掛けた“SMILE〜晴れ渡る空のように〜”。1月24日、民放各局が足並みをそろえて一斉放送した『一緒にやろう2020大発表スペシャル』に出演した桑田は、この楽曲タイトルを紹介するとき、そんなふうに告げていた。

「一緒にやろう2020」は、半年後に迫った2020年東京オリンピック・パラリンピックに向けて様々な取り組みを行っているプロジェクトだが、その応援ソングについては各局の代表が話し合った結果、全会一致で桑田にオファーすることが決定したという。番組内で放送された“SMILE〜晴れ渡る空のように〜”のスペシャルムービーは、国立競技場を目と鼻の先に臨む渋谷区・ビクタースタジオ屋上での歌唱シーンから始まる。大らかな包容力を備えた親しみやすいポップチューンではあるけれど、巧みに織り成すシンセサウンドやリズムトラックは現代的な響きをもたらし、先ごろMVが公開された桑田佳祐 & The Pin Boysによる新曲“悲しきプロボウラー”同様に、2020年代の新しい音楽的トライアルを伺わせる桑田サウンドに仕上げられている。

《私とあなたが 逢うところ/ここから未来を 始めよう》。スペシャルムービーのなかで1コーラス目のブリッジを歌うとき、桑田は立ち上がってくるリズムに身を委ねる素ぶりを見せ、未来に向けられたこの曲のメッセージを力強くドライブさせている。

サザンオールスターズによる“東京VICTORY”のときもそうだったが、桑田の応援したいという気持ちが込められた歌は、出場選手へのエールや、勝者への祝福、競技そのものに向けた士気高揚といった目的には終始しない。さまざまな思想・文化的背景を持つ人々の出会いの機会としてオリンピック・パラリンピックを捉え、《愛情に満ちた神の魔法も/悪戯な運命(さだめ)にも/心折れないで/でなきゃ勝利は無いじゃん!!》といったふうに、ときには生活を脅かす神の悪戯=天災を掻い潜って生きる人々に思いを馳せている。《栄光に満ちた者の陰で/夢追う人達がいる/いつも側(そば)に居て/共にゴール目指して》という箇所では、勝者に限らず誰もが努力を重ねている日々を、そしてアスリートたちを陰で支える人々たちの暮らしを、見つめているのである。

2020年東京オリンピック・パラリンピック開催が決定してからの日本社会は、果たしてその祭典に向けた一枚岩の目的意識をもって動いていただろうか。正直なところ、僕自身は日々のニュースに触れてモヤモヤ、イライラとすることも多かった。説明と理解が不十分なまま、オリンピック・パラリンピック開催というタイムリミットに向けて慌ただしくルール改正や都市の再開発が進み、不透明な利益分配の目算だけが先行して生活が振り回される。海の向こうでは、血の流れる戦乱も後を絶えない。夢の舞台に向けて努力する人にエールを贈りたい一方で、興味をそそられない人や、お祭り騒ぎどころではない人がいることも知っている。価値観の大きな差異が浮き彫りになり、疲弊感を抱きながら気力を振り絞っている日々だ。

“SMILE〜晴れ渡る空のように〜”の中で桑田は、そのバラバラな思いをどうにか繋ぎとめようとしている。誰もが目指しているのは晴れ渡るような笑顔のはずだという、分断の遥か彼方にある共通項を導き出している。彼はたしかに日本のポップミュージックを象徴する存在だが、「ポップ」の使命を全うしようとする忍耐強い思考の痕跡には、ただただ感動を覚えるというより他にない。これこそが、桑田に寄せられる期待の根本にあるものだろう。

スペシャルムービーの後半には、国立競技場のフィールドに立って“SMILE〜晴れ渡る空のように〜”を歌う桑田の姿がある。彼を取り囲んでいるのは、モザイク模様にデザインされたスタンド席だ。この曲を聴きながら目の当たりにする国立競技場は「多様な思想・文化」を象徴する風景に他ならなかった。歌の力が呼び起こす対話の密度はすごい。

思いを押し殺すのではなく、取り繕うのでもなく、その上で自分ではない誰かの思いにも想像力を巡らせること。そこから新しい対話が生まれる。オリンピック・パラリンピックはそのきっかけである。「一緒にやろう2020」プロジェクトのテーマソングを通して桑田佳祐が伝えているのは、おそらくそういうことだ。(小池宏和)
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