「10年っていうかもっと前からなんですけど、ART-SCHOOLとアジカンとの縁は。共に闘ってきた、しのぎを削ってきた同志たちとね、こうやって今年の最後に一緒にライブできるっていうのは……ありがとうございます! メリー・クリスマス!」というストレイテナー・ホリエアツシの言葉に、満場の新木場STUDIO COASTから惜しみない拍手喝采が沸き上がり、「『メリー・クリスマス』ってみんな忘れてると思うんだよね。『忘れてる』というか、知らなかったからね。『この3マン、最高じゃないっすか!』ってアジカンのマネージャーの小川さんに言ってて、チケットが発売になったら『クリスマスライブ』って書いてあった(笑)。『3バンドとも(クリスマスに)そぐわないけど大丈夫ですか?』って」というナカヤマシンペイのMCに、フロアが爆笑で包まれる……11月中旬、まさに「突然」と言っていいタイミングの嬉しいサプライズとして発表された、ASIAN KUNG-FU GENERATION/ストレイテナー/ART-SCHOOLという精鋭3バンドの共演によるライブ・イベント=『STUDIO COAST クリスマスライブ』の開催。その熾烈な切磋琢磨がそのままギター・ロック・シーンの歴史を作ってきた盟友同士だからこその闘志と情熱と感慨が、外を吹き抜ける冷たい風などまるで感じさせないほどに場内に渦巻くオーディエンスの熱気と一丸となって、至上の高揚感を描き出していた。
■ART-SCHOOL
01.BABY ACID BABY
02.水の中のナイフ
03.real love / slow dawn
04.サッドマシーン
05.DIVA
06.車輪の下
07.ロリータ キルズ ミー
08.革命家は夢を観る
09.スカーレット
10.あと10秒で
11.FADE TO BLACK
18:30の開演と同時にステージに登場したのはART-SCHOOL。最新アルバムの“BABY ACID BABY”から、“サッドマシーン”“DIVA”“車輪の下”など自らの10年史を凝縮させたような今回のセットリストも素晴らしかったし、環ROY&アジカン・ゴッチをゲストに迎えて新曲“革命家は夢を観る”で濃密なグルーヴを描き出してみせたシーンは、ドラマチックな名場面続出のこの日のアクトの中でもオーディエンスの熱視線を集めていた。が、何より感激を覚えたのは、木下理樹(Vo・G)&戸高賢史(G)に加え中尾憲太郎(B/Crypt City、ex. NUMBER GIRL)・藤田勇(Dr/MO'SOME TONEBENDER)をサポートに迎えたオルタナ・ドリーム・チーム的な編成から繰り出される強靭なサウンドが、木下理樹の刹那的で背徳的なロックンロールの美の世界に怒濤の推進力を与えていく――というART-SCHOOLの「今」のロック・バンドとしての基礎体力の圧倒的な高さだ。そしてそれは、己の音楽世界を具現化するためには、1音1音が圧倒的な存在感を持つ必要がある、という木下理樹の信念と静かなる闘争心が生み出した必然に他ならない――ということを、この日の強靭なアンサンブルは如実に物語っていた。
MCの口数こそ多くないものの、「アジカンとテナーとやるっていうのは……10年以上前からの知り合いなんで。すごい感慨深いものが、ある、です!」と確かに告げていた木下。「このイベントは、僕にとって素晴らしい夜です。みなさんにとっても、素晴らしい夜になると思うんで……皮肉ではなくてね、素晴らしい夜になるといいなと思ってるんで」と語る木下の言葉に、戸高が「元アートのメンバーが2人(日向秀和&大山純)、ストレイテナーにいるしね」と続けると、「めっちゃ楽屋でモンハンしてたよ(笑)。俺、すげえ訊いたもん。『何の武器使ってんの?』って」と木下が答え、張りつめた音のテンションに支配されていた会場にもホッとしたような笑いが広がる。目映いほどの輝度に満ちた“スカーレット”。爆発力と凛とした透徹美が共存する音像と熱いクラップが融け合った“あと10秒で”。そして、硬質なサウンドでSTUDIO COASTを呑み込んでみせた“FADE TO BLACK”……ロックの美学に貫かれた、どこまでもスリリングなアクトだった。
■ストレイテナー
01.ROCKSTEADY
02.Sunny Suicide
03.BRILLIANT DREAMER
04.シンクロ
05.A LONG WAY TO NOWHERE
06.BLACK DYED
07.VANISH
08.A SONG RUNS THROUGH WORLD
09.シンデレラソング
10.From Noon Till Dawn
11.Melodic Storm
続いてはストレイテナー。11日前に全国ツアー『21st CENTURY ROCK BAND TOUR』で同じくここ新木場STUDIO COASTに立ったばかりの彼らだが、“ROCKSTEADY”のビートを叩き出すナカヤマシンペイのドラムも、最新ミニアルバム『Resplendent』からの“BRILLIANT DREAMER”を熱唱するホリエアツシのヴォーカルも、盟友との共演に際して沸き立つ想いに駆られてか、ひときわエモーショナルに響く。ピアノの調べに乗せて“シンクロ”で聴かせたホリエの高純度なメロディ。ソリッドに研ぎ澄まされた音だけで紡ぎ出す、“A LONG WAY TO NOWHERE”の壮大なロマンに満ちたサウンドスケープ……ホリエ&シンペイの2人から始まって、日向秀和(B)と出会い、大山純(G)を迎え、鉄壁の4人編成となったストレイテナー。そんなテナー史を総括するような楽曲群が、極限まで鍛え上げられ磨き抜かれてきたアンサンブルと共に、この晴れやかな舞台で1曲、また1曲と鳴り響いていく。
「さっき、理樹のステージでの立ち振る舞いを見てて思ったけど……まあ、しゃべりが下手くそですね(笑)」とホリエ。「そもそも、俺たち世代がしゃべりが下手くそなんですよ。しゃべらないのが美徳みたいなところがあったんですけど、最近の若い人たち、『べしゃり』がめちゃくちゃ上手いんですよ……ね?」とオチなしでMCを終えかけたところに、シンペイが「……着地点がないならしゃべるんじゃないよ!(笑)」と絶妙なツッコミを入れる。が、さらにホリエが続けて「『しゃべれなくていい』とか『媚びなくていい』っていうことを貫いて、ここまで来れてるのは、そういう仲間がいるからで。本当に誇りに思ってます」というメッセージへとつなげて上気した顔のオーディエンスに語りかけると、会場の隅々から熱い拍手が湧き起こっていく。「ダンス・ナンバーなんで。踊ってください!」という言葉から流れ込んだ“BLACK DYED”の狂騒感に満ちたビート感。「飛び跳ねろ!」というホリエの絶叫とともに、ホリエ&大山の鋭利なギター・サウンドが鮮烈なフォルムを描き出しながら空気を震わせていった“VANISH”。“シンデレラソング”のダイナミックなキメの破壊力。そして、「来年、11年目もよろしくお願いします!」というコールから圧巻のシンガロングを生み出したラスト・ナンバー“Melodic Storm”まで、ストレイテナーの真骨頂と言うべきロック・アクトだった。
■ASIAN KUNG-FU GENERATION
01.新世紀のラブソング
02.セッション~1980
03.ソラニン
04.君という花
05.踵で愛を打ち鳴らせ
06.今を生きて
07.リライト
08.ワールド ワールド ワールド
09.新しい世界
(Encore)
10.ローリングストーン
11.遥か彼方
そしてラストはASIAN KUNG-FU GENERATION! 一昨日の『only in dreams「Showcase Live」』同様、後藤正文(Vo・G)/喜多建介(G・Vo)/山田貴洋(B)/伊地知潔(Dr)にサポート・キーボードとしてシモリョー(the chef cooks me)を加えた5人編成でこの日の舞台に臨んだアジカン。SEから続けて高らかに響かせた“新世紀のラブソング”。本編の9曲の中に、昨年の最新アルバム『ランドマーク』の“1980”や“踵で愛を打ち鳴らせ”や今年3月の最新シングル“今を生きて”から“ソラニン”、さらに2003年アジカンの快進撃の突破口となった“君という花”まで、この日のために厳選されたであろうことを思わせるセットリストだった。“君という花”でハンドマイクでステージ最前へ歩み出てフロアを煽りまくったゴッチ。“踵で愛を打ち鳴らせ”の祝祭と熱狂が一丸となって踊り回るようなキヨシのビートに乗せて、ゴッチの歌と喜多/山田/シモリョーのコーラスが咲き乱れる至福の音世界……日本のロック・シーン牽引者として、メジャー・デビューから10年間をひた走ってきたアジカン。その真摯な足跡そのもののようなタイトなサウンドが、盟友3バンドの共演を祝う「ホーム」の場で力強く鳴り渡っていた。
「さっきも楽屋でメンバーと話してて……10年前の自分たちが今この瞬間にタイムスリップしたら、この日のこのメンツ、会場も含め、もうわけがわからんだろうなって。『メンバー入れ替わっとるやないか!』っていうのもあるし(笑)」とゴッチ。「長いこと音楽をやってきて、キツい時も楽しい時もいっぱいありましたけど。こうして同世代のバンドと集まると、やっぱ昔のことを思い出しちゃうっていうかさ。クソみたいな夜を何夜も何夜も重ねて、ドブ川みたいなところから這い上がってきたんだよね」とデビュー前史を振り返っていく。「最初の頃はさ、お客さん集まってきても『本当に好きなのかよ?』『どうせいなくなるんじゃん?』みたいな気持ちもあったと思うんだよね。俺らを長い間見つけなかった世間に復讐してやろう!みたいな気持ちも、原動力のひとつだったけど(笑)。だんだんみんな、アラフォーになってきたじゃん? 『ありがとう』みたいな気持ちになってくるんだよね」。悪戯っぽさを交えつつも、自らの10年間を支えてくれたファンへの感謝を伝え、「俺は俺なりに、ネクラなりに感謝してます。ありがとう!」と呼びかけるゴッチに、熱い拍手が巻き起こったのは言うまでもない。
「この前、ポール・マッカートニーを観てね。『70過ぎて“へルター・スケルター”歌っても死なないんだ!』って思って(笑)。だったら俺も、狙っていきたい! 世界最高齢で『消してー!』って叫んだ人として、ギネスブックに載るまで頑張ります!」という言葉に続けてのナンバーはもちろん“リライト”! STUDIO COAST激震の熱狂とシンガロングが、クライマックスへ向けて刻一刻と高まっていく。そして、“ワールド ワールド ワールド”から“新しい世界”の雄大なアンサンブルで本編終了! アンコールでは、9月14日・15日に横浜スタジアムで行われたデビュー10周年記念ライブ『ファン感謝祭』『オールスター感謝祭』来場者限定でDLリリースされたロックンロール・ナンバー“ローリングストーン”、さらに初期曲“遥か彼方”を連射! アジカンの「最新型」と「原点」を立て続けに披露して、「ありがとう。メリー・クリスマス!」と意気揚々とステージを後にしたアジカン。「また俺たちがアラフィフになった時に、こういうクリスマス・イベントをやると思うんで。みんなもヨボヨボだしさ、加齢臭で臭いと思うんだけどさ(笑)。また何か、楽しくやりましょうね」とゴッチは言っていた。迷わず揺るがず、ロックの核心を目指して前進し続けてきた3組のさらなる進化を、どこまでも見続けていきたい――と改めて思った、最高の一夜だった。(高橋智樹)