Ken Yokoyama × BRAHMAN@新木場スタジオコースト

Ken Yokoyama × BRAHMAN@新木場スタジオコースト
1月に開催告知されたKen Yokoyamaの2014年2本目のツアー『Keep Marching Tour』は、3月に入ってツアー開始の迫った頃、各公演の対バン相手を発表。初日・名古屋のlocofrankをはじめ、at Anytime、UNLIMITS、WANIMA、ONE”S TRUTH、GOOD4NOTHING、BURLらと熱演を繰り広げて来たわけだが、ファイナルの舞台となる東京・新木場スタジオコーストで相見えるのは、BRAHMANだ。熱くならないわけがない、その上で何が巻き起こされるのか気掛かりで仕方がない2マンである。

Ken Yokoyama × BRAHMAN@新木場スタジオコースト - Photo by Tsukasa Miyoshi(Showcase)Photo by Tsukasa Miyoshi(Showcase)
Ken Yokoyama × BRAHMAN@新木場スタジオコースト - Photo by Tsukasa Miyoshi(Showcase)Photo by Tsukasa Miyoshi(Showcase)
先攻はBRAHMANだ。TOSHI-LOW(Vo.)、KOHKI(G.)、MAKOTO(Ba.)、RONZI(Dr.)と、ステージ上に怪物を出現させてしまうような4人のパフォーマンスは相変わらず圧巻である。鮮やかなフレーズの間を瞬時に行き来するKOHKIのギター、昂ったコーラスを加えながら足を蹴り上げるMAKOTO、そして拳を振りかざして「ウォオオオオオオオ!!」と凄まじい咆哮を上げるTOSHI-LOWの姿--これが、KEN BANDに対峙するモードのBRAHMANなのだろうか。“Lose All”の、深いサウンドスケープと終わりのない闇の中で、マイク・スタンドごと膝から崩れ落ちるTOSHI-LOW。そして狂騒のフロアに乗り込んだまま“警醒”を猛スピードで駆け抜けると、TOSHI-LOWが語り出す。

Ken Yokoyama × BRAHMAN@新木場スタジオコースト - Photo by Tsukasa Miyoshi(Showcase)Photo by Tsukasa Miyoshi(Showcase)
「先月さ……インフルになって。薬、すげえ飲んでライヴやったから、ずっと調子悪くなってて。暖かくなって、やっと調子良くなってきたと思ったら、なにこの天気? あの人、ナニ山さん? タテ山さん? ナナメ山さん? ああ、横山さんね。横山タケルさん。あの雨男」と、爆笑名調子が全開である。春休み最後の日曜日に行われるライヴで、自身の子供をどこにも連れて行けなかったと思ったら、PAさんの子と一緒に細美武士が「隣にある、あのネズミの国」に連れて行ってくれたこと。ドキュメンタリーフィルム『横山健 疾風勁草編』については、「強い風が吹いて、本当に残った草が強い草なんだなって」と横山健を見る自身の目が変ったこと。AIR JAMのHi-STANDARDについては、「練習もしてない、新曲も作ってないんじゃ、3年目は懐メロになるだけだよ。3人で缶コーヒー飲みながら朝まで話し合って、またいつかやって欲しい。でも、今度は11年も待たされるのは嫌だけど」と思いの丈を次々に語り、そして“霹靂”と“鼎の問”で巻き起こされる歌声に目一杯まみれながら、BRAHMANは笑顔でステージを後にするのだった。

Ken Yokoyama × BRAHMAN@新木場スタジオコースト
さて、楽器・機材と共に『東北ライブハウス大作戦』ののぼりや、日の丸、そして「Ken Band ™」の看板(ただし普通にペン書き)などが配置され、「WE ARE FUCIKIN' ONE」のバックドロップ浮上に合わせて歓声が沸き立つと、Ken Yokoyamaが登場だ。「久々のコーストだな……えー、さっきTOSHI-LOWにさんざんいじられた、横山健です。あと10年で老衰で死ぬって、50代半ばで老衰かよ!」と、そんな彼に浴びせかけられる「タケル」コールも容赦がなくて最高だ。Hidenori Minami (G.)、Jun Gray (Ba.)、松浦英治 (Dr.)らと共に、スウィートなイントロから“Cherry Blossoms”を切り出し、猛烈なスタート・ダッシュで“Pressure”、そして日の丸をマントのように羽織っての“You And I, Against The World”と楽曲を畳み掛けて行った。

Ken Yokoyama × BRAHMAN@新木場スタジオコースト
「旗でもなんでもいいから、思い思いのもん振ってくれよ!」と披露された“This Is Your Land”の後には、混沌としつつも美しいフロアを前に「韓国の人がいたら、韓国の旗を振ってくれて構わない。中国の人がいたら、中国の旗を振ってくれて構わない。もちろん、アメリカでもイギリスでもインドでもそう。俺は、日本が大好きなんだわ。でも、オリンピックとか、ワールドカップのときしか振れないなんて、寂しくないか? いいじゃないかよ、好きなときに振れば」と告げる。更に、“Go With The Flow”では、「この先どうなるか分からないし、何が起こるか分からないから、俺は今このときを楽しんで、素直な気持ちでいたいと思うわ」と言葉を投げ掛けていた。ロックやパンクでは、使い古された常套句かも知れない。しかし例えば「顔が青ざめる」とか「背筋が凍る」とか「肌が粟立つ」といったリアルな感覚は、いつでも使い古した言葉以上の刺激的な体験であるように、「今このときを楽しんで、素直な気持ちで」いることを伝えるために、音楽はとても有効な手段だ。横山健は、ずっとそのことを伝え続けている表現者なのだ。

Ken Yokoyama × BRAHMAN@新木場スタジオコースト

昨年デビューしたHidenori Minami所属バンド=emberの“I Do”をカヴァーする一幕。これがまた面白かった。健さんは自らステップを踏むダンスが「思ったより沸かなかった」と零していたが、同じ4人で演奏しているのに、それまでの楽曲よりもずっとタイトでスタイリッシュな音像なのだ。Ken Yokoyamaの楽曲は、もっと前のめりでぐしゃっとした音像になる。健さんが率先してそうなる。楽曲に込められたエモーションが、そういう演奏を呼んでいるからである。そしてKen Yokoyamaのパフォーマンスでは、フロアも身振りの揃った景色ではなくて、前のめりでぐしゃっとした「興奮の坩堝」を絵に描いたような光景になってしまうのだ。続いてJun Grayがリード・ヴォーカルを務める“Fuck Up, Fuck Up”も、Junの柔らかく抜けの良い歌声が映えて素晴らしかった。“Last Train Home”がオーディエンスの高らかな歌声を誘い、「『The Cost Of My Freedom』から、今年で10年なんだって。次の10年はどんなかなあ?」と繰り出されるのは“Ten Years From Now”だ。見えている景色は変っても、歌はまた新しい意味を抱えて届けられる。

Ken Yokoyama × BRAHMAN@新木場スタジオコースト
Ken Yokoyama × BRAHMAN@新木場スタジオコースト
健さんがTOSHI-LOWのMCをモノマネするなんてことも、10年前なら考えられなかったはずだ。内容については、観て聴くぶんには面白いけど、書き写しても仕方がないので控えます。じゃあ触りだけ。「ハァ、ハァ……オナニーと言えば……男のオナニーは市民権を得ていて……」。はい、全編下ネタでした。その背後をすっと横切るTOSHI-LOW。そして“霹靂”の歌い出しでオーディエンスの歌声を誘ったかと思えば、そのまま“Save Us”のシンガロングに持ち込むという、技ありなモノマネなのである。そこから“Ricky Punks III”、“Punk Rock Dream”とアンセムを連打し、松浦英治が歌うナンバーはジャパニーズ・ポップUSヒットの古典“Sucky Yacky”。「新生活が始まる人もいると思うけど、まあ折れずにやってくれ!」「俺、この歌をみんなに歌ってもらうのが大好きなんだわ!」と放たれる最終ナンバーは“Believer”と、眩いエネルギーに包まれる本編フィナーレであった。

Ken Yokoyama × BRAHMAN@新木場スタジオコースト
アンコールに応えると、狼の被り物(某・究極の生命体ではありません)をした男を連れ出してくる健さん。ちょっと顔は確認し難かったのだが、なんと「ネズミの国」帰りの細美武士だ。「本当に行ってたんだ」と健さんも笑っている。細美の横には、リボン付きミニーのカチューシャを嵌めたTOSHI-LOWが。本気で恥ずかしそうな表情をしていたのが更に可笑しかった。そして演奏されるのは、HUSKING BEE“Walk”のカヴァーから、TOSHI-LOWが健さんの足元の敷物を引き剥がしてフロアに投げ込んでしまう“Let The Beat Carry On”、健さんがドラムスの台座に腰掛けてイントロをじっくりと奏でながら披露される“Longing (A Quiet Time)”と、パフォーマンスが続いた。ダブル・アンコールでは、「さっきも行ったけど『The Cost Of My Freedom』から10年で、何周年とかやる柄じゃないから、区切りを付けるつもりも全然なくてさ。でも10年かあ、と思いながら回ってたツアーでした。最後に、あんまりやってない曲やるわ!」とソロ・デビュー作のタイトル・チューン“The Cost Of My Freedom”を披露してゆく。現実の厳しさを見定めながら、それでも笑顔で居続けるために、音を鳴らして歌う。そんな横山健の揺るぎない姿勢を、再確認するステージであった。(小池宏和)
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