【コラム】吉井和哉はなぜ「ヨシー・ファンクJr.」を必要とするのか? カヴァー集DX盤を絶対買うべき理由

【コラム】吉井和哉はなぜ「ヨシー・ファンクJr.」を必要とするのか? カヴァー集DX盤を絶対買うべき理由 - 『ヨシー・ファンクJr.~此レガ原点!!~ Deluxe Edition』『ヨシー・ファンクJr.~此レガ原点!!~ Deluxe Edition』

昨年発売された吉井和哉初のカヴァーアルバム『ヨシー・ファンクJr.~此レガ原点!!~』。このアルバムのデラックス・エディションが2015年8月19日に発売される。オリジナル盤は昨年11月に発売されたもので、実際に音を聴く前に収録曲一覧を見た時に、ものすごく好奇心をかき立てられたのを覚えている。アルバムタイトルが示す通り、おそらく吉井少年が音楽に触れた「原点」をそのまま出してきたことが窺える選曲だったからだ。当時のヒット曲が満載で名曲揃いなのだが、言ってしまえば、ベタな選曲である。ミュージシャンがカヴァー作品を発表するときには、ある種のてらいが加わって変化球的な選曲をしたくなることも多いはずだが、このアルバムの選曲にはそういうてらいが一切なく、つまりは吉井和哉の本気の「原点」を知ることができるアルバムだと直感したのである。

ヴォーカリストとしての表現力や魅力はTHE YELLOW MONKEY時代から何度も語られていることだが、このアルバムでは、彼の声が持つセクシーさがとても際立っている。“真赤な太陽”(美空ひばり)での中性的な妖艶さ、“ウォンテッド(指名手配)”(ピンク・レディー)でのレイジーさ、“夢の途中”(来生たかお)での物語性。全編通して、吉井和哉の声の魅力が存分に堪能できる。そして、原曲の良さを、それとわかる形で残している点にも注目したい。“あの日にかえりたい”(荒井由実)では、原曲でも印象的なクラリネットの旋律を活かしたアレンジが施されているし、また、“さらばシベリア鉄道”(大滝詠一)は、列車が走るスピードに切ない恋心を乗せた魅力的な曲だが、それをさらに速いビートで歌い上げることにより、楽曲の持つ疾走感をより際立たせている。すべて原曲と聴き比べてみると、吉井自身の「この曲のこういうところが好きだった」という明確なメッセージになっているような気がして嬉しくなってしまうのだ。かつて日本の歌謡曲が持っていた、いい意味での雑食性をさらに濃縮して現代の音に還元するという、ともすれば胸焼けギリギリの荒技を、なんとも粋にやってのけている。原曲を知らない世代が聴いたとしても、素晴らしく完成度の高い作品と思うことだろう。

さて、そんな名作のデラックス・エディション。その気になる中身だが、オリジナルの高音質バージョンに加え、DISC2はインストゥルメンタルバージョン(オリジナルではイントロとアウトロに分かれている“SPINNING TOE HOLD”が1曲として収録されている)、さらに嬉しいことに、DISC3ではTHE YELLOW MONKEY時代を含む、彼のキャリアの中での様々なカヴァー楽曲がまとめられている(MOTT THE HOOPLE“Honaloochie Boogie”の日本語詞カヴァーはやはり秀逸!)。そして、見逃せないのがDISC4である。昨年12月28日、日本武道館で行われた吉井和哉のライヴから、当日披露したカヴァー曲を映像化した、全12曲収録のDVD。特に、アルバムには未収録の“サムライ”(沢田研二)の演奏がとにかくカッコイイ。ハードボイルドな男が見せる弱さがジュリーの魅力のひとつだが、歌いながら皮のコートを肩にはおる仕草を真似るなど、改めて吉井和哉のジュリーリスペクトが窺える映像である。そして、アンコールの“襟裳岬”(森進一)では、コーラスグループを迎えて、ザ・ローリング・ストーンズ“無情の世界”へのオマージュをしっかり感じさせるなど、見どころは尽きない。このDVDだけでも、このデラックス・エディションを買う価値があると思う。(杉浦美恵)
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