【コラム】SEKAI NO OWARIはなぜ「別世界としてのワンダーランド」を造り続けるのか?

【コラム】SEKAI NO OWARIはなぜ「別世界としてのワンダーランド」を造り続けるのか?

今年7月18日・19日、日産スタジアムに計14万人を動員して開催された、SEKAI NO OWARIのワンマンライヴ「Twilight City」。当日の模様はここRO69でもレポートした通り(http://ro69.jp/live/detail/129729)だが、Saori自身もMCの中で「『建造物』だからね、40mって」とその途方もない大きさに触れていたように、その会場で僕らが目にしたステージセットは、これまでのライヴの概念をあっさり覆す規模のものだった。

「人間の営みを呑み込んだ巨大樹」あるいは「巨大樹の上で人々が生活を始めた」とでもいうような、高さ40mに及ぶ樹木をモチーフとしたオリエンタルな趣の造型。その根元にあるメインの舞台に加え、頭上の「木の枝」にあたる場所には店をかたどった小ステージがスキップフロア風にいくつも設けられている。さらに、左右ヴィジョンを挟んで舞台袖には列車型ステージカーの発着場となる駅=「ムーンライトステーション」が設置されており、2日目(7月19日)には宙を舞う列車型バルーンから光る星が降り注いだ――という一連のファンタジックな舞台装置が、広大な日産スタジアムのアリーナ部分の長辺一面を丸々占めている。巨大建造物と言うより、それ自体がまさにひとつの「街」と呼ぶべきスケール感だ。

ご存知の通り、彼らが大規模な「別世界」としてのワンダーランドを作り上げるのは今回が初めてではない。2013年10月に富士急ハイランド・コニファーフォレストで「炎と森のカーニバル」、2014年10月には同会場にて「TOKYO FANTASY」を開催。ウォータースクリーンや火の玉などさまざまな特効を盛り込んだ高さ30mの巨大樹セットがそびえ立つステージエリア。意匠を凝らしたブースやオリジナルカクテルなどのメニューが用意されたサブエリア。会場の世界観に添ってデザインされたコスチュームを身にまとったスタッフが醸し出す、ミステリアスで心地好い「別世界」感……それらと渾然一体となった形で、SEKAI NO OWARIは自身の音楽を中心とした一大エンターテインメント空間を構築してきた。今回の「Twilight City」は、そんなセカオワ・ファンタジーをさらにダイナミックな形で実現する壮大なトライアルだった。

そして特筆すべきは、「炎と森のカーニバル」「TOKYO FANTASY」と同様、「Twilight City」という名の「街」は、ライヴが終われば解体されて跡形もなくなってしまうということだ。「炎と森のカーニバル」の際に「総製作費5億円」というトピックが注目を集めていたが、いわゆる「ロックバンドの大会場ワンマンライヴ」とは遥かにかけ離れた次元の――それこそ常設アトラクションをいくつも含んだ遊園地を丸ごと設営するような規模の労力と資源を、SEKAI NO OWARIを中心としたチームは明確な意志をもって1日2時間ほどのアクトの輝きへと注ぎ込み、数日で消えてしまう「別世界」を全身全霊傾けて造り上げていたのだ。

SEKAI NO OWARIのファンタジックな楽曲世界を生み出しているのは紛れもなく、今この時代の現実を自戒もこめて射抜く批評精神と、その現実を少しでも前へ先へと突き動かしたいと願う4人の真摯な祈りそのものだ。音楽でファンタジーを描き出すアーティストは数多くいるが、そのファンタジーが僕らの現実そのものの原動力として機能し得ている表現者は極めて稀だ。その重みをセカオワは真っ向から受け止めているからこそ、自らカラフルな非日常としての「街」を造り出し、そのファンタジーを鮮烈な光景とともに1日7万人のオーディエンスと共有してみせたのだろう。「Twilight City」という名のポップ理想郷が、あの場所には確かにあった――という記憶とともに僕らの現実により力強く作用するために、SEKAI NO OWARIのライヴ表現は音楽の領域をも超越して、より明確にファンタジックである必要があった、と言い換えてもいい。

《君を自由にするためなら/みんなに愛されなくていいんだ》《オレは悪でいたいのさ》(訳詞)とダークなヒップホップアレンジとともに突き上げる“ANTI-HERO”。「SOSすら聞こえない無感覚の世界」への危機感を麗しのファルセットで歌い上げた“SOS”……格段に深化を遂げた英語詞の新曲群も、「Twilight City」の世界とまったく矛盾なく融け合い、その風景にさらに複層的な広がりと奥行きを与えていたのが印象的だった。他でもないSEKAI NO OWARI自身の音楽が「異世界」としてのワンダーランドを生み、来場者との濃密なコミュニケーションを生み、その音楽表現をさらに前進させる――そんな唯一無二の循環をシーン最前線で描いてきたセカオワの「今」が、「Twilight City」には凝縮されていた。(高橋智樹)
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