【コラム】THE ORAL CIGARETTESの新曲“DIP-BAP”は、今シーンに何を宣言しているのか?

【コラム】THE ORAL CIGARETTESの新曲“DIP-BAP”は、今シーンに何を宣言しているのか? - 『DIP-BAP』発売中『DIP-BAP』発売中

僕自身、ロックバンドの楽曲を聴いて最も胸を突き動かされるのは、そのバンドが「自分たちが今立っているステージの規模に忠実にカスタマイズされた音楽を鳴らしている」時ではなく、「その原動力がたとえ野心だろうと音楽的探究心だろうと(あるいは妄想であったとしても)、今いる場所を超えた途方もないスケールの表現空間を、自分の音楽の力で作り上げようとしている」ことがリアルに伝わってくる時だ。
という意味において、本日2016年8月3日(水)にリリースされたTHE ORAL CIGARETTESのニューシングル表題曲“DIP-BAP”が実にいい。過去最高レベルに突き抜けたサウンドで、聴く者をロックとポップの異次元に叩き込んでくれる快盤だ。

“DIP-BAP”ミュージックビデオはこちら。

それこそ全米ヒットチャートから飛び出してきたようなキャッチーなコーラスワークだけでも十分驚愕に値するが、4つ打ちダンスビートと二拍三連のリズムが寄せては返すサビの問答無用の高揚感といい、ヒップホップとミクスチャーが容赦なくせめぎ合うアレンジといい、この“DIP-BAP”という曲に吹き荒れるダイナミズムは、最新の2ndアルバム『FIXION』とは明らかに異なる、リミッター外れた躍動感に満ちている。

昨年夏には山中拓也(Vo/Gt)の声帯ポリープ摘出手術のため、ライブ活動の一時中止を余儀なくされたオーラル。歌を歌えない状況の下、山中は「中学の時ヒップホップがすごい好きで、そこから音楽にのめり込んだ」といった自らのルーツと向き合いながらバンドの「その先」を見据えていた……というエピソードを、彼は現在発売中の『ROCKIN'ON JAPAN』2016年9月号のインタビューで語っている。

「それまでもずっと、いつロックシーンに切り込み入れるんだろうとか、誰がロックシーンに切り込み入れてくるんだろうとか、そういうのをすごい考えてたんですけど。じゃあ今、自分が実際にルーツとしてるヒップホップっていう音楽をオーラルのロックに変えて提示した時に、何か切り込みになるんじゃないかな」
(『ROCKIN'ON JAPAN』2016年9月号より)

オーラルは間違いなく2010年代のロックシーンを体現する存在でありながら、同時にロックシーンへのカウンター精神を常にたぎらせているバンドであり続けてきた。彼らが真っ向勝負で脳裏に叩き込んでくる楽曲が、常にギリギリのねじれや軋みとともに伝わってくるのはそのためだ。
そして――“DIP-BAP”での彼らは、自らのカウンター精神をエッジ感ではなく、洋楽ポップシーン直系の音像のスケール感&イケイケのコーラスへと置き換えるに至ったのだろう。極彩色のテクスチャーを盛り込んだこの曲が、どこまでも開放的で、なおかつどこまでも挑戦的なロックナンバーとして快楽中枢に突き刺さってくる理由はそういうことだと思う。

《もういいかい?/光さす感情も夢を語ったその歌も/君には必要のないものでしょう》

《もういいよ!/つまらないこの世界に身を寄せ生きるのは/もうバカなことだって気づいて欲しいから》
(“DIP-BAP”)

他の人とは違うやり方で、あるいは誰も通らないような筋道で、人よりも一歩でも前を/先を目掛けて突き進んでいくこと――オーラルが“DIP-BAP”に結晶させたのはすなわち、彼らがキーワードに掲げている「BKW(番狂わせ)」というファイティングポーズそのものだ。
年功序列も終身雇用も関係ないロックの世界で重要なのは、ありったけの想いをこめた歌と楽曲で、どれだけ鮮やかな番狂わせを見せてくれるか、それだけだ。だからこそ“DIP-BAP”は、THE ORAL CIGARETTESの新たな闘争宣言として、最高に痛快に胸に響く。(高橋智樹)
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