エレカシ「伝説」の渋公ライブ、大スクリーンで観る壮絶パフォーマンスに震えた

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  • エレカシ「伝説」の渋公ライブ、大スクリーンで観る壮絶パフォーマンスに震えた - pic by 上飯坂一

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まさに魂の衝撃映像集。
観る者すべての心を焦がす圧倒的な熱量と、その心の奥底まで射抜くような冷徹な視線が同居する、戦慄必至のロックのドキュメント――。
エレファントカシマシのライブ映像作品『エレファントカシマシ〜1988/09/10 渋谷公会堂〜』のリリースを記念して東阪Zeppにて行われた今回の上映会は、ロックという型にすらハマりきらない宮本浩次の怒濤の生命力を、2017年という時代に改めて厳然と掲げるものだった。

アルバム『THE ELEPHANT KASHIMASHI』&シングル『デーデ』でデビューを飾ってからわずか半年、1988年9月10日。
暗幕が取り払われ、コンクリートの壁や袖の大道具まですべてが露わになった渋谷公会堂の舞台。
開演からアンコール終了まで、ステージだけでなく会場の照明が煌々と灯る中で、宮本浩次/石森敏行/高緑成治/冨永義之の面持ちはもちろん、観客の表情のひとつひとつまでもがつぶさに見て取れる、異様な緊迫感。
当時から映像ディレクターとして数多くのアーティストのミュージックビデオやライブ映像を手掛けていた撮影監督:坂西伊作(故人)が企画段階から関わって実現したこのライブは、「客電つけっ放しライブ」としてエレカシのファンの間だけでなく半ば伝説の如く語られてきたものだ。

しかし――29年ぶりに映像・音源ともにリストア&リマスタリングを施され、ライブ全編を完全に収めた映像作品という形で今回上映された「エレカシ1988渋公」は、このステージが「伝説」になった真の理由を、完膚なきまでに物語っている。


冒頭の“おはよう こんにちは”から、ばりばりと空気を裂くように轟く宮本の絶唱。
両眼をひんむいて喉を破らんばかりの咆哮を聴かせた次の瞬間に見せる、高揚感や充実感とはまるで無縁の鋭く醒めた表情。
リズム/ビート/符割りといったロックバンドの定型に囚われることすら拒むかのように、荒ぶる衝動のままに渾身の叫びを突き上げる、凄絶なパフォーマンス――。

“デーデ”、“ファイティングマン”など1stアルバムの楽曲を軸としつつ、“ああ流浪の民よ”、“待つ男”などリリース前の2ndアルバム『THE ELEPHANT KASHIMASHI II』の曲も披露。計14曲・トータル70分の中に当時のエレカシを高純度で凝縮していたこの渋谷公会堂公演。
「こんなわけねえんだよ。普通は(幕が)垂れ下がってんだよ」と剥き出しの舞台をぐるりと見回して語り、「失敗だな。明るすぎる」と誰に言うともなく呟いたかと思えば、トミの横でスタッフが回していたカメラに「何撮ってんだ君は!」とずんずん迫ってくる――といった予測不能な宮本のアクションのひとつひとつに、思わずドキッとさせられる。

“花男”で本編を終えて退場、アンコールを求める手拍子に応えて再度登場した宮本は、「面倒臭いしさ。なんつうか……ちゃんと用意してあるんだから、アンコールを」とボヤきながら、“ファイティングマン”に入る前にこう言っていた。

「慣れていくんだろうなあ、俺もなあ……心配だよね」

シンガーとして/バンドマンとして当然誰もが抱くはずの「わかってほしい」という想いすらなぎ払うかのように吹き荒れる、「わかってたまるか」という宮本浩次22歳の切迫したルサンチマンの爆発が、文字通り「白日の下に曝された」あまりにも熾烈なアクトだ。
ロックショウとしてあまりにイビツで鋭利な、この唯一無二のステージの記録は同時に、エレファントカシマシという表現がデビュー時点から規格外の存在であったことを、その画角の隅々にまで焼き付けている。

さすがに映像上映という性質上、この日のZepp Tokyoの客席は「客電つけっ放し」でこそなかったが、椅子席も立ち見エリアも含め、会場はそれこそ触ると切れそうなほどの張り詰めた緊迫感に包まれていた。
かく言う自分も、観ながらいつしか呼吸が浅くなっていたようで、会場を出てから思わず何度も大きく深呼吸した。目の前でライブが行われていたわけではないのに、確かに「息が詰まるような」というレベルの衝撃を与えてくれる映像であったことは間違いない。

この日の上映前、会場では「エレカシ1988渋公」の告知映像とともに、同日リリースされるデビュー30周年記念シングル『風と共に』のスポット映像が流れていた。
ロックという名の「様式」に飲み込まれることに対して頑なにNOを突きつけ続けながら、そのあふれ返る衝動を珠玉のメロディという形で解き放っている宮本の「今」の凄味に思い至り、もう一度震えた。(高橋智樹)
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