サマーソニックのヘッドライナーを控えるカルヴィン・ハリス。6月に電撃的にリリースされた新作『ファンク・ウェーヴ・バウンシズ Vol.1』は、タイトル通り、最初から最後までファンク・グルーヴとキャッチーなメロディやサウンドが繰り出されるここ2枚のアルバムとはまったく違う新機軸を打ち出したものになっている。
では、今なぜファンクなのか。それはとても単純な理由からで、きっとこれが無性にやりたくなったからというだけのことなのだ。そしてまた、ここ5年以上身を投じてきたEDMについても徹底的にやり尽くした感もあったのかもしれない。
では、単なる新しい思いつきとしてこういうファンクに向かったのかというと、そういうわけではない。もともとハウスDJとして活躍してきたカルヴィンにとってファンクは最も敬愛するサウンドであって、本来カルヴィンはファンクを独自のハウス的なキッチュさで再構成するサウンドが売りとなってきたからだ。
だが、今回のアルバムは初期のカルヴィンのファンクのように才気ばしったものにはなっていないし、むしろその百戦錬磨のセンスで極上の音に仕上げたものになっている。いつか、こういうアルバムを鳴らしてみたいときっとずっと思っていたのだろうなと思わせる、ある意味でカルヴィンの思い入れいっぱいのアルバムになっているし、自身のインスピレーションとなってきたファンクへのオマージュ・アルバムでもあるのだ。
そんな最新作『ファンク・ウェーヴ・バウンシズ Vol.1』収録曲全10曲を徹底的に解説する。既に聴かれている方も、この全曲解説をよみながらぜひ聴き直して欲しい。
1. Slide
そんなアルバムの冒頭を飾るのがミッドテンポのどこまでルースなファンク・ナンバーであり、ほぼディスコともなっているダンス・ポップ・ナンバーだ。
ややもすればただ弛緩してしまうだけのこのナンバーにフランク・オーシャンを起用してエッジを持たせるところがこの曲のカルヴィンの神業的采配。すべてに満ち足りたと思った矢先に陥る虚無的な気分を見事に歌いきってみせていて、ピッチをかけた少年のようなフランクの声が「パイプを持つ少年でも買ってみせるか」と繰り返されるのがさらに効いてくる。
なお、「パイプを持つ少年」とは2004年に1億ドルもの値をつけたピカソの絵のことだ。中盤以降には今を時めくミーゴスが登場するが、このゆったりとしたミッドテンポのグルーヴに合わせて、音節を凝縮したようなラップを間断なく聴かせるのが見事過ぎてその人気の理由をよくわからせてくれる。
2. Cash Out
これはシングル曲ではないけれども、このアルバムを語る上ではとても重要な曲。積み上がっていく溜めを効かせたベースラインとふわふわしたキーボード・リフによるサウンドは80年頃のファンクを見事にノリとして捉えていて、カルヴィンのファンク・オタクぶりが発露されているトラック。
これにスクールボーイ・QのMCがヴァースの間乗っかって、聴きやすいコーラスはパーティネクストドアが歌うという、ヒップホップを踏まえた順当なファンク・オマージュとなっている。
しかし、終盤で登場するD.R.A.M.の幽体離脱したような不気味なブリッジ・コーラスがまさにパーラメント=ファンカデリックそのもで、ひとえにこの曲はここがすごい。この要素こそまさにPファンクだからで、以降トラックが終わるまでひたすらPファンク化していくのだが、こんな見事なPファンク・オマージュはなかなか聴けるものではないし、このアルバムにおけるカルヴィンのファンク愛がいかほどのものなのかをよく証明する曲なのだ。
3. Heatstroke
続くのはアルバムからのセカンド・シングルとなったこのナンバー。これもまた1980年代頃のファンク・ポップを見事に構成してみせた曲で、本作中でも最も完成度の高いナンバーのひとつ。
クール・アンド・ザ・ギャングのクールことロバート・ベル的なポップでドライブのあるベースラインにヤング・サグとファレル・ウィリアムスとアリアナ・グランデが絡むというあまりに強力な布陣。ファレルとヤング・サグのコーラスに続くアリアナのサビは極上の展開を生み出している。
4. Rollin
キーボードを駆使したこのぷにょぷにょサウンドと太いベースラインとの組み合わせはまさにまた80年代的なファンク / ポップ / ディスコの典型ともいえるサウンドで、このモチーフは見事過ぎるが、これにカリードのネイト・ドッグを思わせる太いが甘いボーカルがうねるように絡み合ってメロディを歌い上げていく展開が見事。
特にカリードのボーカルとフューチャーの棘の立ったラップのメリハリも素晴らしく、明らかにこの音におけるカリードとフューチャーの絡みは90年代のウェストコースト・ヒップホップのファンク・サウンドも彷彿とさせるもので、80年代と90年代へのオマージュが同時に来る展開で泣かせる。