アヴィーチー
『AVĪCI』
8月10日(木)配信リリース
音源制作に活動を絞ってから約1年、アヴィーチーが8月10日に6トラック収録のニューEP『AVĪCI』を全世界同時配信リリースした。トータル18分弱の再生時間だが、どこを切ってもアヴィーチー節でしかありえない、華麗でエモーショナルなポップソングだけが聴こえてくる。アヴィーチーは、1週間前にインスタグラム上でリリースを告知し、公式ツイッターでは6日間のカウントダウンとして収録曲の断片を順次公開していた。
Avicii - Friend Of Mine “Audio” ft. Vargas & Lagola
アコギのリフが変形のボ・ディドリー・ビートを刻んで始まる“Friend of Mine (feat. Vargas & Lagola)”は、まるでファンとの再会めがけて《君は今でも僕の友達かい?》と問いかけるナンバー。アヴィーチーのフォーキーな音作りやメロディが、郷愁に揺さぶりをかけてくる。かつての“You Make Me”や“Hey Brother”、“The Days”などを共同プロデュースしてきた盟友=セーラム・アル・ファキールとヴィンセント・ポンターレが、彼らのユニットであるVargas & Lagola名義で参加しているのも心憎い。
Trecho longo de "Lonely Together" versão acústica ontem, via @emileyisabella pic.twitter.com/EZo5Gf3aEu
— Rita Ora Brasil (@RitaOraBrasil) 2017年6月28日
“Lonely Together (feat. Rita Ora)”は、6月末にリタ・オラがこの曲のアコースティック・バージョンを歌う動画をツイッターに投稿したことで、今回のリリースの話題性をリードしてくれたナンバー。“You Be Love (feat. Billy Raffoul)”と甲乙つけがたい、メランコリックで美しい楽曲だ。
Avicii - Without You “Audio” ft. Sandro Cavazza
“Without You (feat. Sandro Cavazza)”と“What Would I Change It To (feat. AlunaGeorge)”は、いずれもライブ活動休止前にステージで披露されていた楽曲の正式リリース。とりわけ、最初にして最後の来日公演でもオープニング曲に起用されていた“Without You”には、特別な思い入れを抱くファンも多いだろう。僕自身、このトラックに触れた瞬間に幕張のスタジアムの光景が鮮やかに蘇ってきてびっくりした。
そして今回の6曲を締めくくるのは、“So Much Better (Avicii Remix)”。衣装を変えるように大胆なイメージチェンジをもたらしてしっかりと酔わせる、そんなセルフリミックスも相変わらずクオリティが高い。
なお今回のEPは『AVĪCI(01)』というタイトルも散見されるが、これは本作含め3作連続のEPリリースが予定されているからだろう。3作目のEPと同時に新たなフルアルバムが届けられることを、「BBC Radio 1」に電話出演したアヴィーチーが語っている。楽しみだ。
著名人にミステリアスな箱(新曲入りのスピーカーらしい)を送り、そのニュースがSNS上で拡散されたことも面白いが、何よりもアヴィーチー作品では楽曲そのものが強烈なプロモーションの機能を果たしている。しばしの別れの挨拶だった“Without You”の記憶、そして絆を再確認する“Friend of Mine”の意味が、ドラマティックな感動を誘い、EP『AVĪCI』をヒットさせているのだ。
DJたちが、EDMフェスや巨大ナイトクラブのレジデント出演で凌ぎを削る今日、ライブ活動を休止しているアヴィーチーの存在感は薄まるどころかさらに増している。愚直と言ってもいいぐらいの音楽への信頼とリスナーへの信頼、そして新しく独創的なアイデアを手に、彼は次なる熱狂へと我々を導いてくれるのだろう。(小池宏和)