U2『ソングス・オブ・エクスペリエンス』は2017年に放たれる音楽として最も有効なメッセージを表現したアルバム

U2『ソングス・オブ・エクスペリエンス』は2017年に放たれる音楽として最も有効なメッセージを表現したアルバム
昨日から何度も何度も聴いているけれど、感動と興奮が少しも薄まることのない本当に素晴らしいアルバムだ。
そして数少ない、2017年現在の世界を包み込む巨大なネガティヴな空気に対抗する力を持つ音楽的表現が具体的にここにはある。

グローバリゼーションの限界が露呈して、明るい未来への希望はなくなって、すべては終わってしまったように思える。
民衆が能動的になれる原動力は、他人のことを思いやる大きな「愛」ではなくて、たとえばドナルド・トランプのような人物が扇動することを得意とする「怒り」。
そんな時代の空気の中で「愛」をイノセントに表現することは有効ではない。
そこで高い知性によって建設的な力を持つ「怒り」のメッセージを凝縮させてこの世界と闘った、2017年もう一つの大傑作がケンドリック・ラマーの『DAMN.』。
一方、U2『ソングス・オブ・エクスペリエンス』はあくまでも「愛」をまっすぐ表現している。
しかし、それをイノセントに表現することとは対極の、何もかも自分たちが実際に生きて経験してきたことだけで表現するということを徹底的に突き詰めてこの世界と闘っているのがこのアルバムなのである。

愛は世界が抱える問題を一気に解決する処方箋ではないけれど、人が一生の間に経験できることや、人類がこれまで経験してきたことを、最大限の知性と想像力と謙虚さを持って知ろうとして、最後に信じられる行動原理は愛だけ。
そんな「事実」をロック・アルバムとして形にする、それはU2というバンドだからできることであり、これまでの歩みの全てを注ぎ込んで彼らはそれを2017年の間に見事に成し遂げた。
このアルバムの消えない感動と興奮の源は、そこにあると思う。(古河晋)
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