自ら「イエローミュージック」を標榜し、細野晴臣およびYMOへのリスペクトを日頃から公言している星野源は、このツアーの1曲目に、ハリー細野&ティン・パン・アレーやYMOがカバーした、マーティン・デニーのインストゥルメンタル曲“Firecracker”を選んだ。しかも自身がマリンバを演奏して。この選曲からしてすでに、「Continues」というコンセプトは明確に示されていた。偉大な先人の音に衝撃を受け、それが遺伝子のように自らの表現に刻み込まれていき、さらにその誰かが生んだ音楽を聴いた人が、また新たな音楽を生み出していく……音楽は有史以来、そうしてずっと続いてきたのだということ──。全編にわたって貫かれている、そのコンセプト、というよりむしろ歴史でもあり哲学でもあるかのような壮大なメッセージを、これほどの大規模会場で、誰もが最高に楽しめるエンターテインメントとして完成させた星野源に、改めて大きな拍手を送りたくなる、そんな映像作品だ。
では、なぜこの「Continues」という素晴らしいライブツアーのコンセプトが生まれてきたのか。その答えは、今回のパッケージ作品に収められている、ツアードキュメンタリー映像で存分に語られている。ツアー中の、各公演の楽屋でのコメントなども参照しながら、星野自身がツアー後1ヶ月というタイミングでインタビューに応じ、4ヶ月に及んだツアーをじっくり振り返るという内容である。そのインタビューによると、驚くべきことに、今回のツアーコンセプトは、「まず先にタイトルを決めなきゃいけなかった」ということで、「なんとなく決めたのが『Continues』だった」というのだ。なんと、コンセプトありきではなかったとは驚きだ。前回のツアー「YELLOW VOYAGE」は、アルバム『YELLOW DANCER』のリリースツアーであったけれど、今回はアルバムツアーではないということから、なんとなく「つづく」というような、拍子抜けするほどにライトな気持ちでつけられたタイトルであったのだ。
しかし、この思いつきを発端に、どんどんそこに込めていきたい思いや明確なメッセージが湧いてくる。「このコンセプトなら、ずっと演りたいと思っていた“Mad Pierrot”(YMO)ができる。そこに“時よ”をつなげるのをやりたいと思っていたから」と語る星野源(※YMOの“テクノポリス”という楽曲を聴けば、このコメントの意図がさらに深く理解できると思います)。おそらく「Continues」という言葉に引き寄せられて、これまで顕在化していなかった思いが一気に浮上してきたのだろう。やりたいと思っていたことは、つまりは彼の内部の一番本質に近い部分にありながら、だからこそ、簡単には表出させることが難しいものだったのではないか。それが、このタイトルの「思いつき」によって、不思議なくらいするっとすべてがつながっていく。これは奇跡なのか必然なのか。