寺岡呼人×Mr.Children・桜井和寿の“秘密戦隊☆ゴジュウレンジャー”には、若き世代へのあたたかな愛情が込められている

「ふざけてるような歌なのに泣けちゃう曲」――寺岡呼人と27年もの盟友であるMr.Childrenの桜井和寿は、この曲をこのように絶賛している。

“秘密戦隊☆ゴジュウレンジャー feat.桜井和寿”は、2月7日にリリースされた寺岡呼人のアルバム『LOVE=UNLIMITED』に収録されている、桜井がゲストボーカルを務めたボーナストラックだ。ちなみに同曲はもともと、2016年にリリースされた寺岡のアルバム『COLOR』に収録されている、寺岡ひとりによって歌われていた楽曲である。……正直タイトルを見ただけでは桜井と同様「コミカルな歌なのでは?」と思えてしまう作品だが、実際は円熟の域に達した今の寺岡だから歌える、達観していて、かつ優しいまなざしが感じられる――まさに「泣けちゃう」ような楽曲なのだ。そして何より、50代に突入したこのタイミングで(『LOVE=UNLIMITED』の発売日は寺岡呼人50歳の誕生日)、旧知の仲である桜井と共に歌われることで、この曲に宿るぬくもりがより深みを増しているように思う。

この歌の「泣けちゃう」感じというのは、自分より若い世代に向けられた、寺岡のあたたかな思いやりが歌詞に込められているところにある。

《住宅ローン》や《年老いてく怖さ》に苛まれつつも、「自分たちの子どもを世界の《悪夢》や《悲しみ》から守りたい」と奮起する「アラフィフ」男性、すなわち「ゴジュウレンジャー」の勇姿を、明るいロックサウンドに乗せて歌うこの楽曲。中でも個人的に心を動かされたのは、《負けることを覚えた 心優しき戦士達/どんな悲しみも ぶっ飛ばしてやる》というサビのフレーズだ。年輪を重ねて挫折や敗北を経験し、悔しさ、生きづらさ、惨めさ、孤独を知り、そしてそこから何度も這い上がってきた「アラフィフ」だからこそ、子どもたちの純粋無垢な心に襲いかかってくる悲しみを一緒に吹き飛ばせるのだということを、この部分はまっすぐに伝えている。迫りくる壁を乗り越えるので精いっぱいな現状だけど、酸いも甘いも経験して生きる術を身に着けてきた自分だからこそ、子どもたちや若い世代が生きる世界を守れるんだ、だから戦わなきゃ――そんな寺岡の熱い親心が炸裂しているのが、この“秘密戦隊☆ゴジュウレンジャー”なのだ。

……ちなみにここのフレーズの主旋律は桜井が歌っているのだが、それがまた心に沁みる要因だったりする。Mr.Childrenは取るに足らない日常の出来事や、胸中に靄のように漂う虚無感や憂いから灯台の光のような希望を見出すバンドであり、桜井は(曲によって歌い方は違えど)それを人懐っこいハートウォーミングな声で歌い紡いできたボーカリストだからだ。ここでも柔らかな歌声をしっかりと響かせ、人生の苦味も知る大人たちの優しさと強かさを、見事に証明してみせた。

今回、寺岡が再度“秘密戦隊☆ゴジュウレンジャー”を歌ったのは、単なる思い付きなどではなく、「次世代」というものを意識して曲作りを行うというモードが彼の中にあったからではないかと個人的に思う。というのも、アルバム『LOVE=UNLIMITED』の中には“種まき人”という「自分の存在が忘れられても想いは受け継がれる」と歌った曲があり、またアルバム全体を見渡しても、「寺岡呼人はこの50年をどう生きたか?」を語るような楽曲が並んでいるからだ。そう考えると、もしかしたら『LOVE=UNLIMITED』というタイトル自体、(直訳したら「愛は無限」だと思うが)「愛は世代を超える」という意味をも持ち合わせているのではと思ってしまう。「生まれ来る次の世代に、音楽家として何を繋げられるだろうか」――ひょっとしたら寺岡はそんなことを考えながら、未来に捧げるランドマークとして、このアルバムを自身の50歳の誕生日に打ち立てたのかもしれない。

一方、今作に参加した桜井も、Mr.Childrenが2015年にリリースしたアルバム『REFLECTION』収録の“進化論”で、「誰も傷つけない優しくて素敵な夢を、次の世代に引き継げるだろうか?」という想いを切々と歌い上げている。……ここで思うのは、もしかしたらふたりが“秘密戦隊☆ゴジュウレンジャー”をこのタイミングで披露したのには、ある種の必然性が伴っているのではないか?ということだ。寺岡と桜井はこれまで何度もボーカル参加や楽曲の共作を行ってきた仲であるし、今回もおそらくちょっとしたきっかけで共演が決まったのだと思うが、もしかしたら無意識のうちに「受け継ぐ/受け継がれる」というところで互いに共鳴しあい、下の世代に対する想いを共に歌うという事象に導かれたのかもしれない。いずれにせよ、このふたりが歌う一見コミカルなナンバーは、今歌うべくして歌われた、次世代への慈愛が込められた歌だと言えるだろう。(笠原瑛里)
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