星野源のNHK朝ドラ主題歌“アイデア”から1日が始まることの素晴らしさについて

星野源のNHK朝ドラ主題歌“アイデア”から1日が始まることの素晴らしさについて
NHK連続テレビ小説『半分、青い。』が4月2日からスタートした。主題歌は星野源の“アイデア”という楽曲。これまで俳優として『ゲゲゲの女房』に出演したことはあるものの、アーティストとして朝ドラの主題歌を担当するのはこれが初である。このところの星野の制作モードからして、楽曲タイトルが“アイデア”というシンプルな一言で表されているということを知った時点で、すでに彼自身の中に明確なイメージがあることがわかったし、“恋”と同じく、“アイデア”というその言葉自体がドラマの物語に寄り添うものであることも直感した。

新年度が始まって、一日の始まりに『半分、青い。』を観る人たちにとって、楽曲のイメージには無意識ながらに求めるものがあって、やはりどこか爽やかで、穏やかで、ポジティブな気持ちにさせてくれるものを望んでいるであろうし、星野もそれは十分に理解して制作に臨んだはず。そしてできあがったものは、前向きで爽やかという意味では、事前の期待を存分に超えてくるものだった。でも穏やかさという部分では軽快に予想を裏切ってくれたなという印象で、テンポ感は思わず心がはやるような、朝ドラのオープニングとしては歴代のものと比べても、少しアップテンポだったことが、実に星野らしいとも思えた。このテンポ感はたぶんこれからどんどん「効いて」くるはずだ。物語はまだ始まったばかりだが、主人公・楡野鈴愛(永野芽郁)が人生の様々な出来事に出会うたび、明るく乗り越えていく力が視聴者にも伝わるような、そんな後押しをする楽曲なのである。

歌詞についてはまだ詳細はわからないけれど、《おはよう 世の中》という歌い出しで、すべてのリスナーの心をつかんでしまう。憂鬱な朝、爽やかな朝、寝不足でつらい朝、心踊る朝、一人一人に朝はやってくるけれど、どんな人の朝にも、どんな気分で迎える朝にも、等しく「世の中」は必ず向き合うべきものとして常にそこにある。どちらかというと憂鬱な気分で向き合う朝のほうが多いのかもしれないけれど──。そんな思いが、冒頭の一文に集約されている。すべての人のどんな朝にも響く歌い出し。それがこのテンポ感で表現される。毎朝の生活リズムを急きたてるわけでなく、さりげなく心を少し軽くさせるような、そんなテンポ。星野源自身が演奏しているマリンバの音色も軽やかに響く。そして《すべてはモノラルのメロディ》という歌詞は、片耳でしか音を聴くことができないという主人公・鈴愛を表してもいるのだけれど、片耳でしか音が聴けないということを「ちょっと面白い」と言った鈴愛の言葉が、「アイデア」という楽曲の世界にも通じているように思えた。

このオープニング曲が流れる時のタイトルバックが、また本当に素晴らしい。崩れた目玉焼き、焦げたトースト、思わず朝から凹んでしまうような些細な出来事だって、自分の見方次第でなんとも愛らしいものに変わっていくということを、鈴愛の混じり気のない笑顔とともに鮮やかに映し出していく。うまくいかないことや憂鬱なことも、少しでも楽しめる自分であれたなら世の中は違って見えてくるかもしれない。すべてをそのまま受け入れて落ち込むだけの自分ではなく、時にはそれに立ち向かい、時には発想を切り替えて別の視点や考え方を入れることで、人は前に進んでいく。日々のその能動的な営みを、星野源は“アイデア”と名付けたのだと思う。またもや早くフル尺で聴きたいと思わせる名曲。(杉浦美恵)
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