ゆずの新曲“公園通り”を聴いて、20年の月日が塗り替えた風景を想う

ゆずの新曲“公園通り”を聴いて、20年の月日が塗り替えた風景を想う - 『公園通り』『公園通り』
この5月29日より配信リリースされているゆずの新曲“公園通り”は、アートワークにあのマスコットキャラクター=ゆずマンを配した、温かく弾むようなフォークポップ曲だ。現在行われている「YUZU ARENA TOUR 2018 BIG YELL」では、5月30日の大阪城ホール公演より、この曲の会場限定CDも発売される。2種類の特典ステッカーには、ゆずマンと、新たな猫キャラクターのあくびちゃん(「駐車場であくびばっかりしている」という設定はつまり、“夏色”に登場する猫だ)がデザインされたものも用意されているという。

伊藤園「お〜いお茶」の新CM曲としてオンエアがスタートしている“公園通り”は、北川悠仁の作詞・作曲。ストリートライブで活躍してきたゆずが、1998年に渋谷公園通り劇場で初めて有料ライブを行った頃を回想する歌詞になっている。バイト代で手にするアコギの物語は、そのままゆずの始まりの物語でもあるだろう。

しかし、渋谷公園通り劇場は、ゆずがライブを行った同年に閉館している。彼らの思い出の風景は、現実には既に失われているのだ。『公園通り』のアートワークに用いられた風景写真は過去のもので、彼方に見える渋谷パルコのビルも解体されてしまった。ここ数年で、公園通り近辺の風景はガラリと様変わりしている。20年という月日の流れは、残酷なぐらいに風景を塗り替えてしまうのである。

温かく弾むような曲調でありながら、しかし“公園通り”には、記憶の中の風景が失われることの何とも言えない喪失感が渦巻いている。アートワークの中のゆずマンが、そのつぶらな瞳で見ているものは何だろうか。我々はときに、記憶の一部を削り取られるような思いを抱きながら、また訪れる毎日を超えてゆかねばならない。そんなときに、ゆずはこう歌うのである。

《もう一度前に歩き出すよ/こんなに幸せな今があるから/交差点の信号が青に変わる/何事もなかったように 明日へまた進む》

昨年の20周年イヤーを通して、北川は「幸せ」という言葉を幾度となく口にしていた。まさにその「幸せ」を燃料とするように、ゆずは「攻めのアニバーサリー」を駆け抜けたわけだが、ふと立ち止まってみると、20年の道のりには大きな喪失感もあった。人々に歌でエールを送るゆずというグループに、あらためて自覚的であろうとした新作が『BIG YELL』なら、“公園通り”は何よりもゆずのふたりのために生み出された、ゆずの始まりの物語でありエールとして聴こえてくる。

失くしたものと、再び出会ったもの。そのせめぎあいの中で、“公園通り”は「欠落」を「創造」へとダイナミックに転化させてみせる。感動的なナンバーだ。その魔法のような手捌きこそが、ゆずの物語が刻み始められる最初のモチベーションだったのだということを、そして今現在のゆずはまさにそのモチベーションの中に生きているのだということを、この曲は教えてくれる。(小池宏和)
公式SNSアカウントをフォローする

最新ブログ

フォローする