実は、yonigeがこうして作品をリリースしたのは、メジャー1stアルバム『girls like girls』の発売から約1年ぶりであった(※“笑おう”の配信リリースはあったが、これは牛丸の作詞・作曲ではない)。その期間ももちろん彼女たちのライブ活動は精力的だったし、これまで以上に多くのリスナーがyonigeの歌に共感し、ファン層もどんどん拡大していった時期でもある。でも、そのメジャーデビュー作から今作に至るまで、牛丸は曲作りで迷いの時期に入ってしまっていたのだという。
「前回のアルバムからずっと曲作りに行き詰まってて、もっとキャッチーな曲を作んなきゃ、みたいなのがずっとあって、そしたら全然曲作りが面白くなくなっちゃって」(『ROCKIN’ON JAPAN』9月号インタビューより)。
サビでガツンとキラーワードを突きつけ、自らの体験や感情を赤裸々に歌詞に投影していく牛丸の作詞は突出したひとつの才能であり、リスナーもその歌詞とキャッチーで耳に残るフレーズを、yonigeの楽曲の魅力と捉えていた。そして、その解釈はまったく間違っていない。飄々とした佇まいというか、どちらかといえば男前な雰囲気すら醸し出すyonigeが、クールなギターロックサウンドに乗せて、その実、共感度がとても高い恋愛ソングを繰り出す。その痛快さと切なさこそがyonigeの魅力であったし、それは今でも間違いないと思う。
けれど、前述した牛丸の言葉通り、彼女は自分の曲作りの姿勢、音楽への向き合い方を自問し始めていた。その結果、リスナーに何を求められているかということは一旦置いておいて、自分が書きたいと思う言葉、作りたいと思う曲を、そのまま表現してみようというところに行き着いた。そうしてできあがったのが“リボルバー”だ。だから、この楽曲はポップではあるけれど、大きく盛り上がるサビがあるわけでも、ワンポイントで強烈なインパクトを放つワードが入っているわけでもない。けれど、全編に漂うどうしようもなく切なくやるせない、けだるい夏の空気を感じさせるような歌詞とサウンドは、これまで以上に多くの人の心をつかむものになった。《永遠みたいな面した後/ふたりは別々の夢を見る》なんて歌詞、さらっと書いているけど驚くほど文学的だ。
これまでは、牛丸の描くパーソナルすぎるほどの歌詞のリアルさにこそ、リスナーは共感した。しかし間違いなく、この“リボルバー”から、その共感性の質が変化している。じんわりと、しっかり心に広がっていくような、聴く者を選ばない普遍性を伴った恋愛ソングがここにある。その時の思いや場面を何の衒いもなく言葉にして、こんなにも切なく胸に沁みる楽曲ができあがったこと。それは先に書いたように、yonigeにとっての分岐点であり突破口である。その後、この“リボルバー”を含むミニアルバムの制作に入ったyonigeは、再び楽曲制作にポジティブな気持ちを取り戻した。10月3日にリリース予定のミニアルバム『HOUSE』は、その歌詞やサウンドの変化も含め、大いに期待していいと思う。
人間として、バンドマンとして、作曲家として、その成長過程であったと言ってしまえばそれだけのことかもしれない。でも、その葛藤や痛みから逃げるのではなく、真正面から向き合って答えを自ら導き出した牛丸の音楽には、これまでにはない自信が宿る。最新作『HOUSE』、ぜひ楽しみにしていてほしい。(杉浦美恵)