奥田民生『カンタンカンタビレ』は「音楽を作るのは面倒で、だからこそ楽しい!」というメッセージアルバムだ

奥田民生『カンタンカンタビレ』は「音楽を作るのは面倒で、だからこそ楽しい!」というメッセージアルバムだ
いよいよ本日9月26日にリリースされた、奥田民生のニューアルバム『カンタンカンタビレ』。ステレオタイプに説明するならば「自分以外のアーティストへの提供楽曲のセルフカバー集」なのだが、今作は何より「それぞれのカバートラックがどう作られたのか」も含めて、どこまでも味わい深い魅力を持った1枚である――ということは、改めて言う必要もないだろう。

奥田民生が「カンタンカンタビレ」の動画をUPし始めたのが昨年10月末。他アーティストへの提供曲のセルフカバーを、自分自身ですべて演奏・歌唱のみならずミックスダウンまで手掛けて、マスターが完成したら即配信(今回のアルバムでは別途ミックス&マスタリングが施されている)。しかも、かつてひとり多重録音ライブツアー「ひとりカンタビレ」で行っていたようなDTM感覚のコピペ&編集OKな環境でのレコーディングではなく、8トラックのアナログオープンリールを駆使して歌と楽器を納得行くまで録り直して(トラック数が足りなければもちろん「ピンポン録音」だ)、ミックスダウンした後のマスター音源の記録媒体はカセットテープ……という手作り感満載の宅録&DIYぶりを、誰もが驚いたりニヤニヤしたりと各世代なりの楽しみ方でご覧になったことと思う。

都内某所の秘密基地的スタジオ「ヘロスタジオ」を舞台に行われてきた「カンタンカンタビレ」の一連の動画をご覧になったことのない方も、新たに1本のミュージックビデオの形にまとめられた“BEAT”(木村カエラへの提供曲)のレコーディング風景を観れば、そのプロセスがいかにリアルに手作りなものだったかが一発で伝わってくる。


「どこからどう聴いても奥田民生」の骨太で豊潤なサウンドだけを聴いた限りでは、「周囲の騒音に配慮して布団の中にマイクと顔を埋めながらのボーカルレコーディング」、「ローファイ加工を施したドラムサウンドかと思いきや、ドラムセットとは程遠いアイテムによる『謎ドラム』」という凸凹制作過程はまるで想像つかないはずだ。
しかし、民生がYouTuber状態で日々公開してきた動画をほぼ毎回即チェックの勢いで観てきた自分が感じたのは、「弘法筆を選ばず」というか、「誰でもやれそう」、「あれならやってみたい」と思えるシンプルかつ身近な手段の集積で、ゴツっとしたポップとロックのカタマリを理路整然と作り上げていく(そしてそのプロセスを可視化できる)民生の途方もないキャパシティの豊かさと正しさそのものだ。

それこそギターやアンプ、エフェクターなど民生愛用の機材お披露目の場としてだけでも十分に楽しめるし、ボーカルの録り方が制作を重ねるごとに成長していく日曜大工感も、「楽曲提供時にデモで録ったドラムのテイクがよかったから」とプロトゥールズから復活させてアナログテープに流し込んだり(THE COLLECTORSへの提供曲“悪い月”)する臨機応変な融通無碍感も含めて、「音楽を作ることの面倒さと、だからこその楽しさ」の手応えがひしひしと伝わってくる「カンタンカンタビレ」。
“フィルモア最初の日”(松浦善博への提供曲)のギターにかけられたディレイを聴けば「ああ、このレコーディングの時にテープエコーのヘッドに触れて感電したんだっけ」と思い出されるし(その模様はこちら→ https://youtu.be/Pt4zjK5dzYM 1:30ぐらいから)、動画と併せて聴くことで何度もおいしい1枚であることは間違いない。

なお、アルバムの11曲には選曲されていないものの、東京スカパラダイスオーケストラ“マライの號”を粘っこいドラミングでカバーする民生のビート感が秀逸だったり(1テイク目でシンバルミュートをミスった後の2テイク目の表情に注目)、“トキオドライブ”を浜崎貴司YO-KINGトータス松本吉井和哉斉藤和義矢野顕子を迎えて地元アレンジを加える「方言シリーズ」も最高だったり、と余すところなく楽しめる「カンタンカンタビレ」。“BEAT”MVを含め動画は現時点で94本公開されているので、ぜひとも焦らずじっくりご視聴いただきたいと思う。(高橋智樹)

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