岡崎体育がさいたまスーパーアリーナ公演をする、その夢とリアルについて

10月8日、NHK・ラジオ第1の特番『岡崎体育の日』内で、遂にさいたまスーパーアリーナでのワンマンライブ開催を発表した岡崎体育。日程は、2019年6月9日(日)。もちろん、そのニュースはじーんとさせられるぐらいに感慨深いものだった。しかし、念願の開催決定ではあるけれど、そこで高揚感のピークを迎えるわけにはいかないという、変な自制心のようなものが働いている。

以前、こちらのコラムにも書いたのだけれど、27歳までにメジャーデビューすることや、30歳を迎えるまでにさいたまスーパーアリーナでワンマンライブを開催するといったタイムリミット付きの目標は、岡崎体育のアーティスト活動において重要な指針となり、また動機付けとなっていた。2016年のメジャーデビューアルバム『BASIN TECHNO』の1曲目に配置された“Explain”では、歌詞の最終ラインで《いつかはさいたまスーパーアリーナで口パクやってやるんだ 絶対》と宣言している。

だから、正直に言うとたまアリワンマン決定のニュースそのものには、さほど驚かされることはなかった。宣言から逆算して考えれば、発表はそろそろかな、まだかな、と思えたし、何よりも、ヤバイTシャツ屋さんとタッグを組んで番組MCを務める『テンゴちゃん』(生放送の番組をきっちりと回してみせる岡崎体育には安心感すら覚える)や、この10月にスタートした朝ドラ『まんぷく』における驚きの初ドラマ出演といった積極的なテレビ番組での活躍には、可能な限りの手段を講じて認知度を高める=さいたまスーパーアリーナを埋める、という強靭な意志が感じられていた。

「芸人ではなくミュージシャン」であることを公言していた岡崎体育なのだから、すべての活動はミュージシャンとして行なっている、と見なしても何ら問題はないだろう。なり振りかまわず、と思われるかも知れないけれど、ミュージシャンが役者を務めたり、逆に役者が優れたミュージシャンでもあるという実例は、歴史上にいくらでも存在している。あるときは極めてシアトリカルで、ひとつのステージを俯瞰して演出してみせる岡崎体育のライブにおいては、番組MCや役者としての経験、また番組制作の現場に触れる経験は、とても有益だと思える。すべては、たまアリのワンマンに繋がっているはずなのだ。

ミュージシャンとして活動するために、何歳までにメジャーデビューしなければならないとか、どの会場でライブを行わなければならないとか、そんな決まりごとはどこにもない。ただ、岡崎体育は「プロのミュージシャンとして食っていく」という現実と地続きの夢を達成するために、前述のような目標を掲げて邁進してきた。テレビ出演も、言って見れば“感情のピクセル”や“お風呂上がりにパピコを食べる歌”の楽曲やMV制作さえも、ひとつひとつが着実に生活者としてステップアップするための経験になっている。それぐらい、岡崎体育の活動はリアルで知的な計画に基づいているのだ。

常軌を逸した道筋を進んでいるようで、しかしそれは彼が吟味し精査した、生活者・岡崎体育だけの確かな道筋になっている。先ごろリリースされた配信シングル“キミの冒険”(アニメ『ポケットモンスター サン&ムーン』OPテーマ)で、彼はこんなふうに歌い出していた。

《見たことない やったことないを恐れないで/さあフューチャーヒーロー 走るんだ 追い風を受けて》

ひとつだけ気がかりなのは、たまアリワンマン開催を発表するときに、彼が「燃え尽きるつもりでやろうと思います」というニュアンスの発言をしていたことだ。まさか、本当に燃え尽きるつもりじゃないだろうな。

僕は、個人的に史上最高の日本語ロックソングのひとつだと思っている“鴨川等間隔”がさいたまスーパーアリーナに鳴り響くところを観てみたい。何なら、もっと大きな会場でも観てみたい。それぐらい普遍的な名曲だと思っている。その時折の話題性を最大限に引き出す職人的な技能を持ちながらも、岡崎体育はやはり素晴らしい才能を持つミュージシャンだ。彼自身が言っていたことである。高揚感のピークは、きっと今後のステージにこそある。まずは、11月から始まる最新ツアーだ。(小池宏和)
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