岡崎体育『OT WORKS』は「お仕事集」だからこそ夢がある

岡崎体育『OT WORKS』は「お仕事集」だからこそ夢がある
4月25日にリリースされた岡崎体育のニューアルバム『OT WORKS』は、TVアニメのテーマ曲やCM曲、提供曲のセルフカバーなど、これまでに彼が制作してきたタイアップ曲を中心に纏め上げられたアルバムだ。タイトルどおり、働くミュージシャン・岡崎体育による「お仕事集」なのである。


常日頃からポケモン愛を公言して止まない岡崎体育の、アニメ『ポケットモンスター サン&ムーン』との相思相愛タイアップとなった“ポーズ”や“ジャリボーイ・ジャリガール”。本人出演のユーモラスなCMが次々話題になった、JINRO“割る!”、ペプシストロング(サントリー)の“MOMOTAROの歌”、パピコ(江崎グリコ)の“お風呂上がりにパピコを食べる歌”など。そして、私立恵比寿中学に提供した“サドンデス”はセルフカバーのバージョンが収録された。我々の日常生活に包囲射撃を仕掛けてくるような仕事ぶりが、今回のアルバムではあらためてそれぞれの楽曲の中毒性を思い知らせるように、伝わってくる。

あの“Natural Lips”にレイ・パーカー・ジュニアやジェリー・バーンズといった名うてのセッションマンがフィーチャーされていたときも驚かされたが、“ジャリボーイ・ジャリガール”の歌心を支えるのはジャマイカ最強のリズムセクションでありプロデューサーチーム=スライ&ロビーだ。岡崎体育が見せる、こんな信頼すべき音楽馬鹿としての一面が、彼の仕事ぶりをがっちりと裏打ちしているのである。

タイアップ仕事を丸ごとドラマMV化した“お風呂上がりにパピコを食べる歌”にせよ、言葉の海に泳ぐ「仕事」をテーマに据えた物語のアニメ版『舟を編む』に寄り添ったオープニング曲“潮風”にせよ、『OT WORKS』を通して見えてくるのは「働くミュージシャン・岡崎体育」の姿である。思えば彼は、27歳までにメジャーデビューすることや、30歳までにさいたまスーパーアリーナでのワンマンライブを開催することなど、タイムリミット付きの目標を己に課して活動してきた(後者については現在も邁進中)。これは、期限内に成果を挙げる「仕事」の概念そのものである。あの手この手で笑いを振りまきながら走り続ける岡崎体育は、一方で極めて高度な仕事意識を持つミュージシャンだ。

今年2月、岡崎体育はファンクラブ内の新たなサービスをめぐる話題でも注目を集めていた。ツイッター上では、熱心なファンから鋭い指摘が岡崎体育本人に寄せられるのを僕も目の当たりにした。それに対して岡崎体育は迅速かつ真摯な対応を見せることになる(https://rockinon.com/news/detail/173247)。プロのミュージシャンとして、日本国内ではまだまだ馴染みの薄いサービスをいち早く取り入れたアーティストと、直接的に金銭の負担に苛まれるファンとの間に生じる齟齬や摩擦は、即座に解決することは難しい。この件は単なる嫌儲といったレベルの話ではなく、新しいビジネス確立の重要なモデルとして、学ぶべきことが多い。

だからこそ、新作『OT WORKS』において、岡崎体育が「仕事としての音楽」を纏め上げることは、とても大切だったのだと思う。SNSで、またブログで、積極的に自身の「仕事」への理解を得ようとしてきた彼は、最終的に仕事の成果と対価とのバランスを、世に問おうとしている。自身の音楽にまつわるあらゆる事柄を可視化してきた岡崎体育の、プロとしての潔い活動姿勢が見えてくる『OT WORKS』に、僕は拍手を送りたい。プロの野球選手やサッカー選手、ゲームクリエイターにYouTuber。どんな時代も、クリアに可視化された「仕事」は若い世代に夢を与えてきたのだから。(小池宏和)

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