lukiの新作『新月とコヨーテ』は、あなただけの時間に寄り添うしなやかなポップアルバムだ

lukiの新作『新月とコヨーテ』は、あなただけの時間に寄り添うしなやかなポップアルバムだ - 『新月とコヨーテ』『新月とコヨーテ』
この5月29日、シンガーソングライター・lukiの新たなミニアルバム『新月とコヨーテ』が届けられた。作品ごとにくるくると作風を変化させるlukiだが、今回はアコースティックなサウンドと、息遣いまで伝わるような歌声に主眼を置いた、大人びたポップミュージック集だ。お茶やお酒でくつろぐ大切なひとときにもぴったりな一枚と言えるだろう。

その8曲はいずれも素朴で穏やかな響きではあるが、実はコンテンポラリーなリズムや練り上げられたメロディが込められ、深い聴きごたえをもたらしてくれる。ジョニ・ミッチェルの名盤『逃避行』をオマージュしたユニークなアートワークからも、そのタッチを連想する人は多いのではないだろうか。

『新月とコヨーテ』というタイトルがまた秀逸で、視界の効かない闇の中に佇む孤独な姿を想起させる。しかし一方で、新月とは新たな月齢が刻まれるその起点だ。闇の中で静かに、しかし確かな「始まり」を予感させるタイトルは、いつでも独創的な表現で反骨精神を描くlukiの作風を詩的に言い当てている。


たとえば“とける”という楽曲は、山田ルキ子のペンネームで『CUT』誌にコラムを連載する映画好きのlukiらしく、『バハールの涙』という映画にインスパイアされた一曲だ。ISの奇襲攻撃に抵抗し、家族を守るために立ち上がった、クルド人の女性武装部隊の物語である。楽曲からは、強さと優しさが表裏一体となって、立ち上ってくる。

また、“台風の目の中で”という歌の主人公は、《いつからこうしてたんだろう 痛みも忘れて/ぐるりと囲まれた 台風の目の中》という過酷な状況に置かれながら、その曲調は不思議とフォーキーで穏やかに響き、主人公の心境を伝えている。過酷な状況を生き抜いている当事者は、意外と穏やかで冷静な心持ちなのかも知れない。リアルな経験が、一歩を踏み出す勇気として滲むナンバーだ。

フォークも、ボサノヴァも、元来しなやかな知性と反骨精神に満ち、孤独を埋め、逆境に立ち向かう表現だった。声を荒げるでもなく、しかしlukiは、音楽の根源的な生命力を導き出している。素晴らしいミニアルバムである。7月11日(木)には、東京・Shibuya LUSHにて、本作のリリース記念ワンマンライブが開催される予定だ。ぜひ『新月とコヨーテ』を深く堪能して、会場に足を運んでほしい。(小池宏和)
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