邦楽と洋楽を橋渡しする、新しいタイプの作品が届けられた。9月4日にリリースされたlukiのミニアルバム『素粒子の記憶』がそれである。すでにMVも公開されている先行デジタルシングル“泣いたのは数秒だった”をはじめ、全8曲を収録している。アッシャーの“U・リマインド・ミー”やTLCの“ガール・トーク”といったヒット曲を手掛けてきた経歴を持つアニタ・マクラウドら、多数の海外ソングライター/プロデューサーによる楽曲提供を受け、そこにlukiが高度な文学性を誇る歌詞を乗せて歌った作風となっている。コンテンポラリーにしてエバーグリーンな大人のポップミュージックが詰め込まれた作品だ。
lukiはそもそも、多作家と呼んで差し支えないほどハイペースに多彩なオリジナル曲を生み出し、歌うシンガーソングライターであった。ところが、ライブでの洋楽カバーを発端に制作された2023年のミニアルバム『新古今洋歌集』は、luki自身の重要な音楽的ルーツでもある洋楽の名曲たちに挑むかのように独創的な解釈をもってカバーした作品となり、それが「他のソングライターが手掛けた楽曲に歌詞を綴って歌う」というアイデアのひとつの契機となったのかもしれない。
夢見心地なサウンドスケープが次第にダンサブルに展開する中、《一緒に飛び越えて行こう》と力強く呼びかける“Let's go to the 5th dimension”。『007』シリーズ映画のごときスリルと高揚感をもたらすトラックに乗せて、抜き差しならない現実に対しイマジネーション豊かに切り込んでみせた“三次元ゲーム”。そして、あまりにも悲しく美しいストーリーを紡ぎ上げてみせたタイトルチューン素粒子の記憶”。
数多くの楽曲提供を受けたlukiが、率直に音楽に触発され、感化されながら言葉をアウトプットし、またあの手この手の歌唱表現を用いてこのミニアルバムを完成させたことが伝わってくる。言わば出会いと変化の人体実験を繰り返し、自身の新たな作家性を見つけてきたような作品なのである。その挑戦の痕跡と豊かな成果を、ぜひ確かめてみてほしい。 (小池宏和)
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