【コラム】生活を歌い、駆ける! シンガーでありランナー――lukiの独自の視点に改めて感動

【コラム】生活を歌い、駆ける! シンガーでありランナー――lukiの独自の視点に改めて感動 - 『その瞬間、見えた風景。』 発売中『その瞬間、見えた風景。』 発売中

lukiは繊細な感受性とユーモラスな批評眼を誇るストーリーテラーであり、また恐ろしくタフな精神力を兼ね備えたランナーでもある。本日リリースした全16曲収録のニューアルバム『その瞬間、見えた風景。』によって、彼女はこの2年の間に3作のフルアルバムを発表したことになる。凄まじい創作ペースだ。3月と5月には以前のアルバムをテーマにしたワンマンライブを行ったが、その2回のライブでもすでに、今回のニューアルバム収録曲がいくつも披露されていた。

“オムレツ”ミュージックビデオ

この10月、テレビ東京系『JAPAN COUNTDOWN』のエンディングテーマに起用されているリード曲“オムレツ”は、村上春樹のエッセイに触発されたというナンバーだ。ステージ上では、インスピレーションの源泉となった映画や小説のことを語る機会も多いが、彼女の凄さはその豊富な情報量そのものにあるのではなく、情報を消化し、すべてを彼女自身の生々しい感情表現なりメッセージなりといった形でアウトプットしている点にある。例えば、《だって毎日がホラー 生きてるだけで》と歌われるユーモラスな新曲“毎日がホラー”や、男性の収集癖を痛烈に批判する“コレクション”からも、その生活感がありありと浮かび上がってくる。

『東京物語』、『黒うさぎ』という、エレクトロニック色が前面に押し出された重厚な作品群を経て、『その瞬間、見えた風景。』は、オーガニックで風通しの良い楽曲が数多く並ぶアルバムに仕上げられた。ただ、“誕生日には海へ行こう”、“奇跡の続き”、“虹色のファンファーレ”といった一聴して晴れやかな楽曲には、どこか決定的なワンシーンが訪れた後の、新しい物語を紡ごうとする意志の形が見えてくる。本作の風通しの良さ、晴れやかさは、手元にある希望や生活の明るい材料をベースにしているのではなく、lukiがその意志によって掴み取ったものなのである。

16の楽曲によって切り取られた一瞬の風景は、どれひとつとしてlukiひとりの中で完結した風景になってはいない。そこには心象の揺らぎがあり、感情の昂りがあり、そして伝えられるべきストーリーが込められている。100kmのウルトラマラソンを完走したという経験から導き出された“孤独を抱きしめ空を仰ごう”の後、胸を締め付けるほどシリアスな記憶と向き合うタイトル曲“その瞬間、見えた風景。”でアルバムは幕を閉じる。彼女にとっての生活とは、絶えず視界をスクロールさせて走り、作品を生み出しながら記憶の一瞬を更新してゆくことなのかも知れない。2016年12月1日(木)には渋谷でレコ発ワンマンが開催される。そのディープな表現の渦に巻き込まれるステージを、ぜひ楽しみにしていてほしい。(小池宏和)
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