「さまざまな女性を演じる」――lukiが選んだ生き方から浮かび上がる新作『ACTRESS』のメッセージ

「さまざまな女性を演じる」――lukiが選んだ生き方から浮かび上がる新作『ACTRESS』のメッセージ - 『ACTRESS』『ACTRESS』
ポップミュージックが鮮やかに時代を映し出す瞬間。lukiのニューアルバム『ACTRESS』に触れて最初に思ったのは、そのことだった。『CUT』誌読者には山田ルキ子のペンネームによる寄稿でお馴染みの、映画評論家としての顔も持つシンガーソングライター。本作は彼女にとって4作目となるフルアルバムだ。全編の隅々にまで上質なサウンドプロダクションが行き届きながら、キャリア最高レベルの風通しの良さを感じさせる作品である。

これまでにも、生活者としての息苦しさや恋愛関係のもつれといった魂の呪縛を解放する楽曲の数々をしたため、音源に刻みつけてきたluki。文学的な歌詞とハスキーボイスの歌、ブルースハープの演奏をベースに、ときにはオルタナティブで刺激的なバンドサウンドやエレクトロニックなサウンド・トリートメントも用い、これまでに『東京物語』(2014)、『黒うさぎ』(2015)、『その瞬間、見えた風景。』(2016)とアルバムを発表してきた。

前作『その瞬間、見えた風景。』では、“コレクション”のように男性にありがちな収集癖を痛烈かつユーモラスに抉るナンバーも収められていたが、新作『ACTRESS』では女性性にフォーカスすることで、より鋭いメッセージを発信している。《ちょっと太ったんじゃないのって/大きなお世話だわ/ちょっと禿げたんじゃないのって/言ってやろうかしら》、《ざけんなよ社会 女子を舐めんな/ハイヒールの痛み 知らないくせに》。アルバムの最終ナンバーに配置された切れ味抜群のロックンロール“女子ウォーズ”に辿り着くまでの全12曲の物語を、しかと受け止めてほしい。


ウィメンズマーチや「#MeToo」運動など、トランプ政権下のアメリカで最初に抵抗を始めたのは女性たちであった。それは性暴力やセクハラやパワハラといった被抑圧への問題提起を起点に、旧来的な社会の枠組みを突き崩そうとする大きなアクションへと変化している。ここ日本においても、飲酒・薬物投与と性暴力をめぐる先日の内閣府公式ホームページの記述が大きな話題となっているところだが、たとえばビヨンセ『レモネード』やソランジュ『A Seat at the Table』といった姉妹それぞれの2016年作が現代のプロテストとして注目されたように、lukiの『ACTRESS』も優れたポップミュージック作品として社会に揺さぶりをかけてくる。

突き抜けるようなサックスフレーズの響く開放的なロックチューン“麦わら帽子”では、《吐きそうなくらい毒を溜め込んだら/早く中和させなきゃ》、《哀しみは明日を生きる力/痛みは誰かを愛す力》と、これぞまさにluki節な反骨心が迸る。甘美なラテン・フュージョン/ファンクでロマンスの時間を紡ぐ“黄昏のダンス”は、レトロなようで新鮮なサウンドに時空が歪む思いがする。《ねえ知ってる?/時は伸びたり縮んだりするの あなたといると》という歌い出しは、音楽の魔法を信じきった見事な言葉選びだ。

愛くるしい情景描写のストーリーが伝う“WITHOUT MY UMBRELLA”から「人生を演じることの業」を引き受ける切々としたバラード“FAKE”にかけて見られる表現レンジの幅広さは、アルバムの豊かな聴き応えを象徴している場面と言えるだろう。そして、スポットライトの当たらない女優の心象をつぶさに描ききった美曲“UNDERSTUDY”は、女性だけには留まらず、アイデンティティの置き所に思い悩むすべての人々を慰めてくれるだろう。そう、lukiはこの『ACTRESS』という作品で銀幕の中のヒロインのように次々と姿を変えながら、「人生を演じなければならない」ことの苦しさについても語っているのだ。

無邪気さもしたたかさも激しいエモーションも、すべてが音の中で際限なくチャーミングに響く『ACTRESS』。歴史上の多くのガールズポップは男性中心的な社会構造の中で生み出されたものかもしれないけれど、lukiはそれを逆手にとるように女性を演じきってみせる。女性として生き、歌うことを「選んだ」のである。ただフェニミンだから魅力的なのではなく、自らの手で生き方を選ぶ決断の強さが、この作品からは浮かび上がってくる。それはきっと、性差に関わらず、現代を生きる多くの人びとの胸に響くメッセージとなっているはずだ。(小池宏和)
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