luki/渋谷Lush

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luki/渋谷Lush
●セットリスト
1. デッキシューズ
2. 誕生日には海へ行こう
3. 奇跡の続き
4. ライムグリーン
5. オムレツ
6. 天国より地獄
7. マーマレードになれたらいいのに
8. ウエディングドレス
9. 毎日がホラー
10. コレクション
11. 夕凪の間だけ
12. 嘆きのハミングバード
13. 虹色のファンファーレ
14. MY HERO
15. 孤独を抱きしめ空を仰ごう
16. その瞬間、見えた風景。
(アンコール)
1. モノクロームの恋人たち
2. ハイエナ
(アンコール2)
1. 女子ウォーズ(新曲)
2. エピローグ(新曲)
luki/渋谷Lush
2016年内に彼女のワンマン公演を観るのはこれが3度目だが、こんなふうに、lukiという人そのものに真っ直ぐ向き合うようなライブ体験は初めてだった。「lukiのライブで初めて」というよりも、そういう感覚のライブ体験自体がいつ以来なのか思い出せないほどだ。最新アルバム『その瞬間、見えた風景。』(10月5日発売)の、リリース記念ワンマンである。
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アレンジャーでもある円山天使(G)、マニピュレーター兼任の山本哲也(Key)、そして張替智広(Dr)という顔ぶれのバンドメンバーも、今やすっかりお馴染み。山本によるピアノの美麗なフレーズがエレクトロニックなサウンドと溶け合い、バックライトを浴びたlukiが新作の冒頭に置かれていたナンバー“デッキシューズ”を歌い出す。続く“誕生日には海へ行こう”では、晴れやかなフックへと突き抜けてゆく歌が、円山の雄弁なギターと絡み合っていった。生のロックサウンドとエレクトロの音像が融和するライブとしても、この時点ですでにこれまで以上の滑らかさと豊かさを感じさせていた。
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触れる者への強い呼びかけが込められた“奇跡の続き”の後、lukiは『その瞬間、見えた風景』収録の全16曲を曲順通りに披露する、という今回のライブの趣旨を告げていた。そもそも、新作収録曲の多くは、今年3月と5月のライブで新曲として披露されていたのだが、今回はアルバムの構成要素として、新しい表情を見せることになる。天国よりも地獄の方が刺激があっておもしろそう、という思いを語りながらの“天国より地獄”は、タイトなバンド演奏が際立つ痛快なロックンロールで、lukiのブルースハープも炸裂する。

この11月からbayfmで毎週木曜深夜に出演しているレギュラー番組のタイトル『シンガーソングランナー』からも伺えるように、彼女は多作家のミュージシャンであり映画コラムニストでありながら、日々の研鑽を怠らない本格派ランナーだ。12月に沖縄で開催される100kmのウルトラマラソンについては、「誕生日なんですけど、誰も祝ってくれないのでエントリーしました」と自虐混じりに笑いを誘っていた。“マーマレードになれたらいいのに”は道端で夏みかんを拾ったというエピソードから生まれた曲だが、可愛らしさだけには留まらない、リアリティに踏み込んだ描写がlukiらしい。
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甘い鍵盤フレーズから切り出される“ウエディングドレス”、弾むようなスウィンギン・グルーヴに彩られた“毎日がホラー”、そして男性の収集癖にロックな情念を燃やす“コレクション”という流れは、思いのすれ違いを映し出す連作ドラマのようだった。『その瞬間、見えた風景。』というアルバムには幾つもの異なる風景が込められているけれど、無意味な風景の羅列ではありえない。感光したフィルムのように心に強く焼きついた、感情の物語がある。lukiとバンドは、それを歌として音楽として、つぶさに再現してゆくのである。

4人の有機的な躍動感がピークに達しようとするステージ後半。「普通の人が頑張っている姿が好きで、そういう人を応援するための歌です」と披露される“MY HERO”、そしてランナー・lukiの心情が人々に寄り添う“孤独を抱きしめ空を仰ごう”を経て、アルバムの最終ナンバーとなる“その瞬間、見えた風景。”へ。新作はこの楽曲に向かって進む作品であり、自分にとっては逃れられないテーマを持つ一曲なのだと、彼女は説明していた。メロディやサウンドが、派手に動き回るような楽曲ではない。しかしlukiの表現力は、その途方もなくシリアスな風景をくっきりと映し出してしまう。
luki/渋谷Lush
アンコールでは、過去作から2曲を歌い、さらにダブルアンコールでは、スタッフには止められたという新曲“女子ウォーズ”(現時点では仮タイトルらしい)を、強い意志をもって披露する。働き、生きる女性をまっすぐに鼓舞する、力強いナンバーだった。そしてこの日のために用意されたというもうひとつの新曲“エピローグ”では、情熱的なトロピカルサウンドに後押しされ、ひとつの終わりを新しい始まりに繋げてみせる。培われた記憶と感情、技術が、見事に折り合ったステージだった。あらためて、lukiという人に出会えた気がする。(小池宏和)
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