『ノーサイド・ゲーム』で必ずエモいシーンに流れる“馬と鹿”に米津玄師は何を込めたのか?

TBSテレビ日曜劇場枠にて7月クールでスタートしたドラマ『ノーサイド・ゲーム』。その第1話で米津玄師の書き下ろした新曲“馬と鹿”が流れるという、前代未聞のサプライズ主題歌発表を成したことも記憶に新しい。

第2話のクライマックス――大泉洋演じる左遷を命じられた主人公・君嶋隼人が、低迷する社会人ラグビーチーム・アストロズをプラチナリーグの優勝へと導くべく、大谷亮平演じるアストロズ新監督の柴門琢磨とのミーティングのなかで大胆な策略を見出すシーンで、同曲が流れた。美しく伸びやかなメロディ、力強い雄大なビート、緊迫感と高揚感を併せ持つストリングスは、人間の底知れぬ生命力や広大な青空を彷彿とさせる。かつては相容れなかった者同士が手を組み、崖っぷちながらに希望を持って新しい一歩を踏み出すシーンと、米津が切実に熱をもって歌う《君じゃなきゃ駄目だ》という一節が、胸に強く響いた。
物語では出世争いや予算案の改革といったシビアな面や、君嶋の「本社に返り咲きたい」という欲求や、そのために策略を練るなどの狡猾な面も見せながらも、“馬と鹿”は《これが愛じゃなければなんと呼ぶのか/僕は知らなかった》という「愛」という人間の根本にあるメンタリティを高らかに堂々と歌う。その相反性は、君嶋が様々な人々と協力しながら逆境に立ち向かうなかで、心境が変化していくことも予感させた。

米津は“Lemon”でも立証しているとおり、タイアップ作品の世界観を尊重しながら自身の音楽を追求できるソングライターである。《痛みは消えないままでいい》という、すべてを受け入れて前進していく姿は彼らしいとも言えるのではないだろうか。未来に夢を持つことが難しい現代と、なかなか思い通りにいかない荒波の人生――“馬と鹿”はそんな状況をサバイブする決意を固めた人々を鼓舞するアンセムだ。(沖さやこ)
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