THE ORAL CIGARETTES・山中拓也というフロントマンの規格外の人間的魅力について

THE ORAL CIGARETTES・山中拓也というフロントマンの規格外の人間的魅力について
今年メジャーデビュー5周年を迎えたTHE ORAL CIGARETTES。国内では初のアリーナツアーを開催したほか、海外においても初のアジアツアーを成功させるなど、バンドの勢いは増していくばかり。それを牽引するのはバンドのフロントマンであり、全曲の作詞作曲を手掛ける山中拓也(Vo・G)だ。

「いいように言ったらピュアだけど、悪いように言ったらもう欲の塊なんです」、「そういう欲の部分を全部音楽で吐き出すっていうのが、僕の仕事なのかなっていうのは思う」(『ROCKIN’ON JAPAN』2016年8月号)と語る山中は、綺麗事だけでは語ることのできない人間の「欲」の部分を曝け出すような歌詞を書く。初期の頃はそこに物語的な要素を加えることの方が多かったが、6thシングル『5150』以降、自身の内側から抉り取るような言葉選びがさらに増えていった。また、ライブに関しては「やっぱり僕が一番の感情の解放をするところはステージだし。もうそれ以外には見つからない。それぐらい腹を括ってる」(『ROCKIN’ON JAPAN』2016年8月号)という意識で臨んでいるよう。華やかな存在感や大胆不敵な発言で観る者を惹きつける一方、何かに苛まされているみたいに身悶えながら歌っていることもある。

3rdアルバム『UNOFFICIAL』のリリース時に「様式美が歪んだ形で社会性に侵食し、欲望を満たす事すら他人の目を気にせざるをえない現代、なんでもかんでも『シェア』する流れの今、『文化』の行く末に不安と違和感を感じてます」とコメントしているように、オーラルは、利便性と引き換えに、情報を噛み砕き自分で判断する力や、自分で見聞きするという経験そのものを軽視しがちな世の中へ警鐘を鳴らすようなメッセージを発信し続けている。それは生身の感情を曝け出す山中のソングライティングがオーラルの心臓だということを、山中自身や他のメンバーが認めている証だろう。今年3月まで行われていた全国ツアー「Kisses and Kills Tour 2018-2019」でAI(人工知能)をテーマにした演出を取り入れていたことも記憶に新しい。同ツアーの国内ファイナル・横浜アリーナ公演で山中は「俺らは感情にこだわり続けます。この世から人間の感情が無くなりませんように」と宣言していた。

また、山中には社会問題と真摯に向き合う一面も。2018年2月に発表された曲“ReI”は東日本大震災をきっかけに作られた曲で、この曲の誕生をきっかけに、同曲のフリーダウンロードをはじめとした「ReI-project」が行われた。プロジェクトが始動した時は震災の発生から約7年が経過していたが、ミュージシャンとして自分が何をできるのか、そして何をすべきなのかを真剣に考えていたからこそ、それだけの時間を要したのだということが「ReI-project」公式ホームぺージ内のインタビュー記事から読み取れる。

自分がそこ(東日本大震災)に関わるのがしっくりこなかったんです。たとえば、広島に原爆が落ちた日に黙祷しましょうとか、3月11日に、あの日のことを思い出しましょう、とか。俺はその人たちの気持ちを100%理解できるわけじゃないから、わかった風なことを言うぐらいだったら、触れずに、目を逸らしてもいいんじゃないかなと思ってたんです。絶対に中途半端には触れたくなかった。で、ロットンのNOBUYAさんに「今日はいつもどおりのオーラルでやるので」って言ったんですよ。

そこ(福島県南相馬市)は、まだ工事をしてて、復旧作業をしてる段階だったんですけど、ショックな光景やったんですよね。「いまは少しはマシになってる」っていう話も聞いたけど、マシになってるって言われても……っていうぐらい衝撃で。言い方が悪いけど、俺、気持ちが悪くなってしまったから、「もう帰りたい」って、そのまま帰ったんです。で、帰り道にずっとその光景のこととか、いろいろな人が自分に対してかけてくれた言葉のことを考えてて。せっかくみんなの前で歌を歌うことのできる人間やねんから、自分なりの消化の仕方をしなきゃいけないなっていう責任感に駆られたというか。そこから曲を作り始めたんですよね。
(「ReI-project」Interviewより)


「自分のことを信じてくれてる人だとか、自分の出した作品に対していいって言ってくれる人間って、きっと感性が合うからそう言ってくれてるんですよ」、「その理由を広げてあげたいし、何かこっちからしっかりどんどん発信していくことによって気づいてほしい。それはね、俺からメンバーに対しても一緒だし、俺からリスナーに対してもきっとそう。そうやって俺は高め合っていきたくて」(『ROCKIN’ON JAPAN』2017年3月号)と語っているように、「対象と誠実に向き合う」という点はリスナーとの関係性にも反映されている。そこには、中学の文化祭でバンドで演奏したところ、ヤンキーの友達が「拓也マジかっけーな」と言ってくれた、自分に居場所が生まれたみたいでそれが嬉しかった――という原体験がおそらく影響しているのだろう。人と人との関係性において、山中は馴れ合いよりも共闘を求める傾向にあり、「互いに認め合い、遠慮なく話せる関係を築くことが仲を深めることに繋がる」という考え方を持っているようだ。先の発言からはメンバーや他アーティストと同程度にリスナーを尊重していることが窺えるが、それはリスナーにも伝わっているようで、驚くことに、オーラルのライブではフロアにいる観客が「もっとこいよ!」とバンドを煽るような言葉を投げかけることもある。バンドがリスナーに対してオープンでいるからこそ、互いに遠慮知らずな空気感が生まれるのだろう。

一方、「バンドってたぶん、クリエイトだけに振り切ったらそれは自己満なんで」(『ROCKIN’ON JAPAN』2018年7月号)という発言からは、バンドはあくまでリスナーの一歩先を行く存在であるべきだという自負が読み取れるし、「人間だけじゃなくて、作品もちゃんと覚醒させたい」(『ROCKIN’ON JAPAN』2016年12月号)という発言には、(人間性のみに依存することなく)曲自体のクオリティを上げることがソングライターである自分の仕事なのだという責任感が表れている。また、オーラルはここ最近アートワークや衣装などビジュアル面にも力を入れているが、その背景には「曲だけじゃなくて、プロモーションやジャケットにおいても、『こういうイメージなんすよね~』だけじゃもう済まない」(『ROCKIN’ON JAPAN』2019年4月号)という意識があるよう。この辺りを総合すると、山中は「バンドのフロントマン」であり「ソングライター」であり「アーティスト」でもあると自身の職業を強烈に自覚している人だとも言えるだろう。そういった心構えが最新アルバム『Kisses and Kills』や最新シングル『ワガママで誤魔化さないで』で見られたバンドの枠組みに囚われないサウンドや、(音楽に留まらない)表現全般のこだわりの源泉になっているのではないだろうか。

そんなオーラルは、8月28日(水)には初のベストアルバム『Before It’s Too Late』をリリース、9月14日(土)・15日(日)には初の野外イベント「PARASITE DEJAVU 〜2DAYS OPEN AIR SHOW〜」を開催――と、ここに来てメジャーデビューしてからの5年間を一旦総括するような動きを見せている。自身の感情や表現欲に半ば苛まされるように立ち向かう山中拓也の歌は、そしてTHE ORAL CIGARETTESの音楽はどのようにして「次」の次元へ向かうのだろうか。引き続き追いかけていきたい。(蜂須賀ちなみ)
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