デビュー当初よりタイアップに恵まれ、様々な物語とともに在り続けたAimerの歌。キャリアを重ねるにつれ、その歌の奥行きと説得力は一層増していて、今もなお表現の裾野を広げている最中だ。
初期のAimerのタイアップ曲を語るうえで欠かせないのが、澤野弘之と菅野よう子、青葉市子の存在だ。“RE:I AM”(2013年3月)、“StarRingChild”(2014年5月)はいずれも澤野が楽曲提供およびプロデュースを担当し、『機動戦士ガンダムUC』のテレビシリーズおよびOVAの主題歌に抜擢。また、“誰か、海を。”(2014年9月)は菅野が音楽を担当したアニメ『残響のテロル』のエンディングテーマに起用された。この曲は菅野よう子が作曲とプロデュース、青葉市子が作詞を担当している。
“RE:I AM”や“StarRingChild”のように力強く壮大な曲はそれまでのディスコグラフィにはなかったし、“誰か、海を。”の聴く者を奈落の底に突き落とすようなボーカルもかなりインパクトがある。このようにAimerは、自分以外の作家が書いた言葉を歌うことにより、ボーカリストとしての可能性を開拓していった人物である。その方針はタイアップ曲に限らず、4thアルバム『daydream』(2016年9月)では多数のアーティストをプロデューサーとして招き、「Aimerの世界観を壊す」をコンセプトに制作された。
一方、作詞家としてのAimer(aimerrhythm)は、曲の提供先にあたる作品と自分自身とを重ね合わせ、そこに共通項を見出しながら言葉を綴っている印象。心臓の奥の方に手を突っ込んで引っ張り出したような言葉ばかり歌っているから、ボーカルのえぐみと説得力がすごい。
例えば、アニメ『Fate/stay night [Unlimited Blade Works]』2ndシーズンのオープニングテーマである“Brave Shine”(2015年6月)は、ツアー中に声が出なくなった経験を基に書いた曲。≪失くせないものを失くした弱さ/何も信じられなくなる脆さ/立てなくなっても 運命(さだめ)は進む≫というフレーズは、自分の弱さを受け入れることによって初めて得られる真の強さを歌ったものだ。また、映画『累-かさね-』主題歌の“Black Bird”(2018年9月)では、演劇(=映画で扱われるテーマ)と歌(=Aimerの主戦場)に共通するワードを用いることにより、フィクションの物語に生身の自分を投影。特に、表現へ向かう者が抱く劣等感や嫉妬心――その奥にある無垢な悲しみを《愛されるような 誰かになりたかっただけ》と言い当てたのは見事だった。
そして、今年に入ってからリリースされたシングル表題曲および、デジタルシングル曲における覚醒っぷりも見逃せない。
2019年1月リリースの“I beg you”は、劇場版『Fate/stay night [Heaven's Feel]』第2章主題歌。“花の唄”(劇場版『Fate/stay night [Heaven’s Feel]』第1章主題歌)に引き続き、梶浦由記が楽曲提供およびプロデュースを行っている。不協和音も潜むミステリアスな曲調はこれまでになかったものだし、「~わ」、「~してしまうの」、「~してしまいしょう」といった口調の歌詞も珍しい。が、熱すぎず冷たすぎない彼女の歌声は意外にも女の情念を表現するのにうってつけであり、結果、ゾッとするおそろしさのある1曲が完成した。
2019年5月に配信リリースされた“STAND-ALONE”はドラマ『あなたの番です』の第1章主題歌。『あなたの番です』は、とあるマンションで行われる交換殺人ゲームを描いたミステリードラマ。疾走感あるバンドサウンドには物語の緊迫感を助長させる効果があるが、Aimerの歌声には人間味が感じられ、物語の底辺に流れる温かな血のようである。特に《泣きたいほど あの時間こそが幸せだった》というフレーズは、第1章のラストに最愛の人を殺された主人公・手塚翔太(田中圭)の心情そのものだと話題になった。
ベストアルバム『blanc』、『noir』における白と黒、今年4月に同時リリースされたアルバム『Sun Dance』、『Penny Rain』における太陽と雨など、Aimerは作品をリリースする際に対となるモチーフを掲げることも多いが、彼女の歌はもはや明と暗に明確に区分けできないような、モヤッとしていたり、ドロッとしていたりする人間の微細な感情をも描写できるようになっている。2017年2月配信リリースの“凍えそうな季節から”(ドラマ『奪い愛、冬』オープニングテーマ)以降、実写作品の主題歌を手掛ける機会が増えているのはおそらくそのためだろう。
そして本日8月14日にリリースされたばかりの新曲“Torches”はアニメ『ヴィンランド・サガ』のエンディングテーマで、先述の2曲とはまた違うアプローチだ。民族音楽を思わせるエバーグリーンなサウンドが北欧の豊かな自然を体現。間奏にある獣の遠吠えみたいなコーラスは遊び心があるし、声をいち楽器として扱うような手法は新鮮でもある。歌詞のテーマは生と死。戦いを題材にした『ヴィンランド・サガ』の物語に沿ったテーマではあるものの、人物の感情に寄り添うというよりかは、少し高いところから世界全体を俯瞰する、言語化し難い概念を形にする、という温度感である。
物語に求められ、化学反応を起こすことにより進化を重ねてきたAimerの音楽は、これからも出会いの数だけ新しい世界に踏み入れることとなるだろう。引き続き目が離せない。(蜂須賀ちなみ)
Aimerの歌はなぜ「物語」を深化させ、羽ばたかせるのか?
2019.08.14 19:00