今やフェス出演はもちろん、対バン相手に数多く指名され、恐れられつつも愛されているバンドが八王子発の4人組・ハルカミライだ。12月には幕張メッセ国際展示場1ホールにて自身最大キャパのワンマン公演を行い、「奔放」を絵に描いたようなライブパフォーマンスで観客を終始沸かせた。そして、橋本学(Vo)のマイクコードの限界ギリギリに挑んだ、観客の頭上をクラウドサーフして歌うパフォーマンスはもはや名物と化している。俺もお前たちと同じライブキッズだぜ、と言わんばかりにグッチャグチャのフロアに飛び込んでいく橋本。ほぼステージで歌わず、観客の中で歌い続けるケースも多い。さらにメンバー紹介の際、最後に橋本の順番が回ってくると、彼はこう叫ぶ。「歌、俺とお前!」と。
ハルカミライのライブではいつも観客による巨大なシンガロングが起きる。そのシンガロングを完全着火させるのが前述の言葉なのだ。観客は脇役でもなければ、傍観人でもない。お前も主役なんだ。というより、お前もハルカミライというバンドの一部を形成しているんだ。そうした観客を巻き込む圧倒的なパワーが、あのライブにおける大合唱の嵐に繋がっているんだろうし、その台風の目にはハルカミライの楽曲がドン!と居座っている。
彼らの曲はなぜ心の底から歌いたくなるのだろうか。まずは橋本の圧倒的な歌唱力が挙げられる。弾き語りでも成立する歌の強さは本物だ。ファルセットを巧みに使い、清冽なメロディを歌い上げる声色は美しい限り。そこにバンド演奏が加わることで、口ずさまずにはいられない高揚感が増幅されていく。また、メンバー全員による合唱パートを設けたり、ストレートな歌詞を連呼するフレーズなどは、初めて聴いた人でもすぐに参加できるわかりやすさがある。パンキッシュなショートチューンからスローなバラード調の作風まで、親密なメロディに貫かれている点も多くの人に愛される理由と言っていい。
ただ、歌詞の内容はめちゃくちゃ前向きなものばかりかと言えば、意外とそうではない。現実の辛さや切なさを真正面から見据えた上で結論を導き出したものが目立つ。例えば《お前みたいに僕らは綺麗に咲けはしないけど(中略)ぐしゃぐしゃで叫んでいたい/赤く青く染まったままで》(“それいけステアーズ”)の歌詞にあるように、自分なりのやり方で、自分なりの色を見つけることで、自分なりのかっこ良さを提示できるのではないか、と歌う。頑張れ!と闇雲に歌い上げるのではなく、もがき苦しみながら、己の素手で実のあるものを掴み取る姿勢がたくさんの人の共感を誘うポイントにもなっている。地べたを這いながら、天高く手を伸ばし続ける橋本の歌声には、その輪の中に入りたくなる人間的な魅力がギッシリと詰まっているのだ。(荒金良介)
幕張メッセ国際展示場1ホール公演のライブレポートはこちら
ハルカミライの歌はどうして観る人全員を「本物」にしてしまうのか?
2019.12.20 17:00