NUMBER GIRLのまるで1本の映画のようだった「無観客ライブ」生放送について

2020年3月1日、Zepp Tokyo。オーディエンスの雄叫びの如き歓声こそなかったものの、全国の映画館およびスペースシャワーTVのYouTube公式チャンネルにて生中継(&翌日いっぱいまでアーカイブ配信)された映像は確かに「NUMBER GIRLという衝撃」そのものだった。

昨年12月から開催されていた「NUMBER GIRL TOUR 2019-2020『逆噴射バンド』」の追加公演にして、解散ライブ2日前=2002年11月28日以来実に約17年ぶりとなるZepp Tokyoでのワンマンライブは、新型コロナウイルス感染拡大の状況を受けて惜しくも開催延期が決定。しかし、バンドはそのままオーディエンスなしの「無観客状態」のライブを決行。一時はYouTube生中継の視聴者が5万人を超え、ライブの随所で向井秀徳(G・Vo)が口にしていた「異常空間Z!」をはじめ、各場面のキーワードが次々にトレンド入りする事態となったのはご存知の通りだ。

まず特筆すべきは、カメラ越しであることを何度も忘れるくらいに「NUMBER GIRLのライブ体験」を高度に再現した映像の見事さだ。
覚醒と戦慄の極致と呼ぶべきNUMBER GIRLサウンドのキワキワ感をダイレクトに再現し尽くした音響。舞台上のあるがままをドキュメント的な筆致で記録しきった映像と相俟って、それぞれの環境で「あの感じ」を誰もが驚くほどリアルに感じ得たことと思う。
それによって、テレキャスターとジャズマスターが音色で斬り結ぶような向井秀徳&田渕ひさ子(G)の鋭利なギターワークも、地鳴りを思わせる中尾憲太郎(B)の極太ベースラインも、交感神経震撼級のアヒト・イナザワ(Dr)の激烈ドラミングも、それらすべてをセンチメントとルサンチマンと焦燥と衝動渦巻くロックの異次元へと導く向井の咆哮も、観る者の魂に焼きつくほどの温度感で目の前に立ち昇らせるに至っていた。何より、この日のアクトに単なる「無人ライブ」を超えた凄味を与えていたのは、舞台上の4人の「無観客という名の戦場」に挑む気迫だったことは言うまでもない。

そして向井。昨年の豊洲PIT公演でも聞かせた「ショーパブ上がりの実力派、“NUM-AMI-DABUTZ”の登場だ!」や「大五郎、これより冥府魔道に入るぞ!」といった時代がかった口上に加え、「タバコに次々火をつけ、4本くわえタバコ状態でリボルバーを構える」というハードボイルド&不条理の表裏一体な場面があったり、突如「水たまりを通った後の猫のモノマネ」でメンバーのみならず視聴者を「?」状態に陥らせたり……と無軌道この上ないブラックユーモア感で、ステージ上に終始スリリングな緊迫感を生み出していた。
『サッポロOMOIDE IN MY HEAD状態』など過去のライブ映像よりもむしろ、向井の監督・編集による異色&異形のスタジオライブ映像作品『騒やかな演奏』(2001年)を思い出したのは僕だけではないと思う。

ライブ終盤、“OMOIDE IN MY HEAD”でフロアに登場して激しいアクションを展開するコート&ニットキャップ姿のダンサーが、実は森山未來だった――という事実に、TLはさらに沸騰。ついには向井のタバコを拝借して一服する森山の姿は、不穏で予測不能で、だからこそ最高な「ライブの魅力」を、今回の「無観客状態」だからこその形で象徴するものだった。
本編に続き“透明少女”の「おかわり」まで飛び出したアンコールも含め、トータル約2時間半。ライブ映像を観終えてすぐ、次のライブが観たくなる――それだけの圧倒的な体験だったことは間違いない。(高橋智樹)
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