「アルバムを通じたメッセージは、『ボルト・カッターを手に取れ(フェッチ・ザ・ボルト・カッターズ)』ね。グダグダ言わずに檻を壊し、自分の気に入らない状況から抜け出せ、という意味」
フィオナ・アップルが先ごろ発表した8年ぶりの5th『フェッチ・ザ・ボルト・カッターズ』は、豊かな音楽感性でギザギザだらけの内面を果敢にえぐり、歌に昇華する彼女の目の覚めるような天賦の才と唯一無二の個性を見せつける圧倒的な作品だ。
『Vulture』に掲載されたこのインタビューで、寡作な上に寡黙なアーティストは新作の制作過程や収録曲の背景から過去のトラウマ、心の病、自己分析まで驚くほど忌憚なく語り下ろしている。彼女を理解する上で非常に貴重なテキストであり、「若く美しい天才女性」に呪いのごとくつきまとうフェティシズムとセルフ・イメージの混乱――古くはケイト・ブッシュ、近年ではスカイ・フェレイラやビリー・アイリッシュが浮かぶ――を生き残った者の証言でもある。「ボルト・カッターを手に取れ」のタイトルは犯罪ドラマの台詞の引用で、連続殺人犯に拉致監禁されていた女性を女性捜査官が救出する場面で発される。錠前を、鎖を断ち切れ――完璧さを追求するのではなく自宅で無修正・本能的に作り上げたこのダイナミックなアルバムで彼女は自らを解放した。新たなフェーズが始まる。(坂本麻里子)
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