レキシの一周回ってやたらとまっすぐキュンと刺さるラブソングについて

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  • レキシの一周回ってやたらとまっすぐキュンと刺さるラブソングについて - 『ギガアイシテル』

    『ギガアイシテル』

  • レキシの一周回ってやたらとまっすぐキュンと刺さるラブソングについて - 『ギガアイシテル』クレヨンしんちゃん盤

    『ギガアイシテル』クレヨンしんちゃん盤

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コロナ禍による延期を経て、いよいよ9月11日に公開された『映画クレヨンしんちゃん 激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者』。その主題歌として同日に先行配信リリースされたレキシの新曲“ギガアイシテル”に、胸が熱くなったりホロリとなったりしてしまった人も少なくないだろう。かく言う自分もそのひとりだ。


「ギガアイシテル」という至って現代的なフレーズに国宝の絵巻物『鳥獣戯画』を重ね合わせ、ポップ高純度結晶的なメロディ&音像とともに《キミのその落書きも いつか誰かの宝物/消さないで 離さないで/残しておいて その想いを》と歌い上げる“ギガアイシテル”。
「ラブソング」として聴こうとすると、日本人の誰もがマスト情報として覚えた日本史のユーモア過積載の「パロディ」の要素がくっきり浮かび上がってくる。かといって、「パロディ」と思って斜に構えて聴こうとすると、その歌詞は想像以上の訴求力を持った「ラブソング」として頭と胸に響いてくる――。
それこそ《武士 イン・ザ・スカイ》(“きらきら武士 feat. Deyonná”)、《このまま年貢 全部 キミに届けて/全部 年貢 for you》(“年貢 for you feat. 旗本ひろし、足軽先生”)といった楽曲でも顕著だったレキシ独自の禅問答回路の存在を、この曲はどこまでも明快に伝えている。

しかし――『映画クレヨンしんちゃん』主題歌決定の発表に際して、「頑張って絵を描いて今は世に出ない人も、100年後1000年後にはすごく評価されてその絵に価値が出るということもある、『ずっとやり続けたら願いは叶う』」とレキシこと池田貴史がコメントを寄せていた通り、“ギガアイシテル”が放つメッセージはもっと切実で、エモーショナルとすら言えるものだ。
何かに喩えられたり、何かに紛れ隠されていたりするメッセージの方が、実は切実だったりすることが往々にしてある。逆に言えば、ダイレクトにぶつけるにはシリアスすぎる「伝えずにはいられない気持ち」を鼓膜と脳裏にするりと受け入れてもらうために、送り手は受け手の想像を遥かに超えて思索と趣向を張り巡らせる、ということだ。

「個」の発信が容易になった一方で「個」が軽視され努力が報われない時代に、レキシが『鳥獣戯画』になぞらえて《僕は何を描けばいいの/涙のあとは自由なんだ/恐れず走り出そう/物語が今はじまる》と歌う言葉は、『映画クレヨンしんちゃん』の世界を飛び越えて僕らのもとへ届く。
「ラブソング」と「パロディ」をつなぐ独自の回路を通して、どんなにシビアで切迫したメッセージでも「レキシの楽曲」に変換できる……というある種の全能感が、この“ギガアイシテル”からは伝わってきて、なんだか無性に嬉しくなる。

――と真面目なことを書こうとすると、《どのくらい その蔵 残れば Don't know cry》と巧みに韻を踏んだラップや《Don’t give up to love 鳥獣戯画 I told you》の軽快な歌いっぷりに心地好く笑わされ翻弄されるのも、レキシならではのマジックだ。楽曲やライブではリスナー/オーディエンスをカラッと爆笑へ導きながら、聴き終わった僕らの心に大事な何かが宿っている――。そんな2020年版ポップ禅問答の在り方を、9月23日(水)にはCDシングルとしてリリースされる“ギガアイシテル”を通して改めて感じていただければと思う。(高橋智樹)
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