カナダのアルバータ州出身のジョニ・ミッチェルは、最初から異色のアーティストだった。
アコースティック・ギターを抱えて歌うスタイルは、フォーク・シンガーとして何ら変哲のないものだったが、その音楽性と存在感は当時全盛だったフォーク・シンガーたちの中では異色で独自なものだった。
「土ぼこりが落ち着いたときには、ジョニ・ミッチェルが20世紀後半の最も重要で影響力のある女性のレコーディング・アーティストとして立っているだろう」という米音楽サイトでの評価の通り、60年代のフォークや70年代のロック/クロスオーバーのシーンの中心にいながら、ジョニ・ミッチェルは常に異色で独自で、そして孤高だった。
オープン・チューニングのギター、滑空するようなメロディー、知性的な美しさを湛えた歌声――そうした圧倒的に優れた音楽性によって、ジョニ・ミッチェルは他とは一線を画し、そして他を凌駕していた。
ボブ・ディランとツアーし、ニール・ヤングとデュエットし、ジュディ・コリンズに曲を提供し、ジャコ・パストリアスやパット・メセニー、チャーリー・ミンガス、ハービー・ハンコック、ウェイン・ショーター、ラリー・カールトンらジャズ・ミュージシャンを起用してアルバムを制作する、そんなことができるシンガーソングライターはジョニ・ミッチェル以外に考えられない。
異色である、ということはオルタナティブであるということだ。
ジョニ・ミッチェルは最初からオルタナティブで、キャリアを通してずっとオルタナティブであり続けた。
90年以降のオルタナ、00年代以降のインディー、そして10年代以降のSSW、そのどれもに共通するオルタナティブの感覚を、60年代70年代からすでに放っていたのがジョニ・ミッチェルだったのだ。
だからこそレッド・ツェッペリン(“カリフォルニア”)やプリンス(“ドロシー・パーカーのバラード”)からビョーク、アラニス・モリセット、フィオナ・アップルまで、これまで登場した偉大なアーティストに多大な影響を与え、現代においてもスフィアン・スティーヴンスからジェイムス・ブレイクまで数多くの先鋭的アーティストに、またテイラー・スウィフトからフィービー・ブリジャーズまで、ほとんどすべての新世代のSSWたちに無意識レベルと言ってもいいぐらい巨大な影響を与え続けているのである。いや、今は、これまでで最もジョニ・ミッチェルの影響下にある時代、と言ってもいいかもしれない。ロッキング・オンでは初となるジョニ・ミッチェル表紙巻頭特集、隅々まで楽しんでください。(編集長 山崎洋一郎)
今回の巻頭特集には、以下のコンテンツが含まれています。
☆88年の決定的オール・キャリア・インタビュー
☆今日的視点で捉えたアーティスト論
☆ジョニのDNAを受け継ぐアーティストたちをめぐる論考
☆完全ディスコグラフィー
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