コロナ禍からの復興の兆しと目され、5月にロッテルダムで盛大に開かれた第65回ユーロビジョン・ソング・コンテストにて、新たなロックンロール・スターが誕生した。毎度のようにダンス・ポップ系アクトが大多数を占める中で一般視聴者の圧倒的支持を得て、イタリア代表として31年ぶり、ロック系としてはローディ以来15年ぶりに優勝した4人組、マネスキンである。
いや、「新たな」という表現は正確ではないかもしれない。なぜって、2015年にローマで結成されたこのバンドは、イタリア版『Xファクター』で準優勝して大手レーベルと契約。すでに、1stアルバム『イル・バッロ・デッラ・ヴィータ』(2018)と、今回のエントリー曲“ジッティ・エ・ブオーニ”を含む2ndアルバム『テアトロ・ディーラ Vol.Ⅰ』(2021)をリリースし、言語の壁をものともせず、全世界で爆発的なヒットを記録しているのだから。
その人気の理由は、4人の存在感と演奏力を前面に押し出した、ユーロビジョンでのパフォーマンスを観れば説明無用。アウトサイダー・アンセムと呼ぶに相応しい“ジッティ・エ・ブオーニ”は70年代ロックの重厚なグルーヴ感に貫かれ、ライブ録音した2ndアルバムの路線を象徴する1曲だが、外見の華美さとは対照的に彼らのプレイはしなやかに引き締まり、ボーカル・スタイルはラップに近く、アークティック・モンキーズやロイヤル・ブラッドにも影響を受けていると聞いて納得がいく。
かつ、思い切りポップな面も隠さず、カリスマ性を滴らせるボーカルのダミアーノ以下、メンバーが着こなすジェンダーフリュイド・ファッションのセンスはハリー・スタイルズのそれに近いし、2021年仕様のロック・バンドのひとつのありようを提示した形だ。
そしてロッテルダムのステージでトロフィーを受け取ったダミアーノは、「これだけは世界に言っておく、ロックンロールは不滅だ」と宣言したが、不滅なのは、まさにこういうバンドが生まれ、歴史から自由に取捨して自分の色に染めて、次世代にその魅力とエネルギーを伝えてくれるからこそ。パンデミックに傷付いたヨーロッパが未来への希望を託したのがロックンロールだったという事実が、それを物語っていると思う。(新谷洋子)
マネスキンの記事は、現在発売中の『ロッキング・オン』8月号に掲載中です。ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。