2009年の『ノー・ライン・オン・ザ・ホライゾン』以来13作目となる新作の仕上げに入っていると伝えられているU2だが、新作をめぐる状況をビルボード誌に語っている。
そもそも昨年からバンドはアルバムの仕上げに入っていると伝えられていたが、この作業に待ったをかけることになったのが映画『マンデラ ロング・ウォーク・トゥ・フリーダム』に曲を提供してほしいと声をかけられたことで、その作業のためアルバム用の作業をいったん中断することになったという。
ジ・エッジは映画の話が舞い込んだ時、「マジで? 今じゃなきゃダメなの?」という心境になったそうだが、ネルソン・マンデラという「人物とその運動との自分たちの関わりを考えたら、やるしかなかったんだ」と語っている。ただ、簡単にできる決断でもなかったとラリー・マレンは振り返っていて「あの時やってたことをやめるのはちょっとしんどかったな。ちょうど作業が転がり始めてて、向かってる先も見えてたからね。でも、映画のためにいったん撤収命令が出たって感じだったんだよね」と語っている。
そうやって映画のために書かれた"Ordinary Love"は今年のアカデミー賞楽曲賞候補ともなっているが、ボノは満足のいくできになるまで3度か4度作り直したと語っている。
「俺もウィニー(ネルソン・マンデラの2度目の妻)の手紙を読んで歌詞を書き換えることになったからね。ひょっとしたら(キング牧師について扱った)"プライド"的なものをやってもらいたくて声がかかったのかもしれないけど、どうもそれじゃ正しくないと思ったんだよね。対立の中でネルソン・マンデラが自分を敗者として感じたのは、敵に打ち負かされたのは結婚においてなんだよね。それだけが彼にはうまくやれなかったことだし、この映画の最も重要なところは、そんな愛の物語なんだよ」
その後、ネルソン・マンデラが昨年末に他界したことも重なってアルバムの作業が相当に遠回りしたともいうが、ボノはあくまでも作品を満足いくところまで突き詰めるつもりだと次のように語っている。
「アルバムはしっかりできるまでできないよ。でも、今じゃみんなちょっと歩き方のペースが変わってきてるから。っていうか、もう歩いてるんじゃなくて、ゴールを目指して走ってる状態なんだ。ただ、アルバムのストーリーの中でまだちゃんと仕上がってない曲もいくつかあるんだよ。でも、この楽曲群を俺たちはこの先何年か世界中に引っ提げて行くことになるんだから、いいものにしないとだめなんだ」
なお、ボノはなんとかかつてアルバムのジャケット・アートが持っていた意味性を蘇らせたいとヴィジュアル面での模索も続けているという。
「アルバムのアートワークが問題なんだ。ビデオじゃないよ。ビデオはしっかり観なきゃならないものだからね。音楽を聴く時には主役にならないようなものでなきゃだめなんだ。ただ、そこにあるという感じでね。聴いてる時になんとなく見てるもの、たとえば、ザ・クラッシュの『サンディニスタ』のジャケットを音楽に合せて眺めて、歌詞に埋もれていく感じだよ。『どこで撮ったんだろう? ちなみにニカラグアってどこだよ?』っていう感じでさ」
「というのも、音楽というのはかつては本当に没頭するためのメディアだったはずだからで、それは音だけでなくて、視覚的にもそういうものだったんだよ。だから、エルヴィス・プレスリーはオーディオヴィジュアルな現象だったんだよ。ビートルズもまたオーディオヴィジュアルだったんだ。ユーザーにmp3ファイルに対してお金を払わせるのはますます難しくなってきているけど、なんかもっとインタラクティヴなものが備わってれば、それも難しくなくなるかもしれないと思うんだよ」