この日最後の“ライフ・ゴーズ・オン” 19:00 ドラゴンアッシュ
8/2 22:05 UP |
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ヒップホップ・アーティストやダンス・アクトが集結したロック・イン・ジャパン・フェス。このような祝祭空間を日本に定着させた最大の功労者のひとつがドラゴンアッシュだ。4年連続出場、4年連続トリ……そんな本フェスにおける功績だけではなく、もっと本質な意味で彼らは日本の音楽シーンを変革した。音楽の垣根を越境する“感性”そのものを彼らは育てあげたのである。フェスも、フェスに参加して自由を謳歌するオーディエンスも、彼らの存在がなければ、これほどのスケール感を獲得しなかっただろう。 2日目グラス・ステージのラスト・アクト、いよいよステージに登場。天井のない野外がはちきれそうな異様な熱を帯びている。 イントロダクションは盟友・SBKの楽曲をサンプリングした“Art of Delta”、そしてオープニングを飾るのは最新アルバム『HARVEST』のオープニング“House of Velocity”! スクリーンに映し出されるKj、彼がかぶるキャップは出場を辞退した麻波25のものだった。 『Harvest』にはダンサブルなブレイクビーツを機軸にしたパーティ・トラックが数多く収録されている。続く“Posse in Noize”“Revive”の冒頭3曲は、そんな新生ドラゴンアッシュの音楽性が結晶化したものだ。ATSUSHI&DRI-Vのダンサーチームに煽られるようにオーディエンスも踊っている。アルバムがリリースされるたびに「新機軸」という言葉で語られがちなドラゴンアッシュだが、そういう戦略性と彼らとは無縁かもしれない。新しい仲間(HIROKI&ダンサー)との出会いの喜び、新しい音楽(ダンス・ミュージック)への熱情、そういうエモーションがドラゴンアッシュの核心部だと多くのリスナーは知っているはずだ。友や音楽への愛を更新しつづけるバンド、それがドラゴンアッシュだと。 BOTSのDJタイムとKjのMCをはさんで、新メンバーHIROKIの音楽的資質が反映されたトランス・ロック“Massy Evolution”と“Snowscape”へ突入。このあたりからライヴはベスト・オブ・ドラゴンアッシュ的な世界観へ、次第に転換していくことになる。 中盤は叙情的なメロウ・バラード“Sunset Beach”から幕を開けた。Kjがギターを弾く、沖縄の夕暮れを音符に置き換えたような美しいナンバーだ。それまでは光速ブレイクビーツにあわせて踊っていた観衆が、寄せては帰る波のように大きなリズムで揺れる。ひたちなかが太洋のように揺れる、ゆっくりと。 その後に続くのは“Stir it up”。夏らしいレゲエ・スタンダード。かと思いきや、実は“Life goes on”のリリックとAメロの旋律を挿入したスペシャル・バージョンであり、ファンにとって嬉しいプレゼントになったと思う。その穏やかさと美しさは“Morrow”へと引き継がれていった。イントロが鳴り響いた瞬間、会場から歓声が。すでに三日月が夜空に浮かぶ時間になっているが、音楽のなかでは太陽が西に傾く、夕暮れの時刻。優しさと感傷の色にグラス・ステージが染まっていく。そして、夜へ―――。 MCでKjはマイクを握りこう言った。「みなさん知ってるように麻波25のSHAKAN’BASSがああいう ことになって。彼の意志を確認したわけではないけど、僕らはここで待ちたいと思う」 聴き慣れた、あのイントロが鳴った。そう、“百合の咲く場所で”だ! 静寂に満ちた旋律が、サビへと極端に一気に表情を変え、急加速するこの曲はドラゴンアッシュ版グランジ・ナンバーである。馬場がベースの弦をガガンと叩くのは、レディオヘッド“クリープ”へのオマージュか。「ここで歌っている」という歌詞を「ここで待っている」に変えて歌うKj、その表情はいつになくシリアスであり、切迫した楽曲のトーンとシンクロナイズしていた。 そこから失速なしでライヴは続く。最新アルバムのハイライト“Canvas”、ディープ・パープルも真っ青のハードロック“Bring it”、そして“Fantasista”と必殺のビッグ・スケールのロック3連発。それまでの、やや感傷的なトーンを炎上させてラスト・ナンバー“Harvest”へ。 祝福そのもの、よりも、祝福を掴みとるための闘いを歌ってきたドラゴンアッシュ。しかし、“Harvest”は彼らが本当に鳴らすことができた祝福そのもの、だ。Kjの歌声も柔らかく日々の歓喜をつづっていく。「収穫」という名前そのままの本当の開放感をフィールドに撒き散らして、終わった。会場からは愛惜の声があがる。そう、終われないのだ。エリック・サティへの敬愛に満ちたアウトロ“Gymnopedie”の間も大きな拍手が止まない。 会場の熱に誘導されるようにメンバーが再び登場! 再び麻波25についてコメントした後で演奏されたのは“陽はまたのぼりくりかえす”!!! It’s Time to Changeという女性コーラスが聞こえたときから、涙を流すファンがいた。それくらいの大名曲である。 この曲を演奏するのはいつ以来だろうか? 重い現実にぶち当たるたびに、この曲を必要とするリスナーは沢山いるだろう。そして、今はドラゴンアッシュにとってもそういう時期なのかもしれない。陽はまたのぼりくりかえしてゆく、死を待つよりは四苦八苦しながら生きていたい―――しかし、なんだろう、死ぬのがイヤで必死に生きるという、この矛盾に似た希望のあり方は。でも、これが人生なんだろう。絶望なら諦めればいい。希望のほうが重いのだ。結果的にいつも様々な使命を背負いながら音楽を続けるドラゴンアッシュを見ると、そう思う。 ライフ・ゴーズ・オン、アンド・オン、アンド・オン……何度でも再生と新生をくりかえしてきたドラゴンアッシュ。この日のライヴも、そんな彼らの姿勢が貫かれていた。 そして、2日目は感動の果てで幕を閉じた。(其田尚也) |
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Dragon Ash のROCK IN JAPAN FES.クイックレポートアーカイブ