椎名林檎『逆輸入 ~港湾局~』の聴きどころ
2014.04.18 19:46
コラボレーション・ベスト・アルバム『浮き名』、
ライブ・ベスト・アルバム『密月抄』、
そして、5月27日にリリースされる、大友良英、上田剛士、前山田健一、大沢伸一、小林武史、根岸孝旨、日高央といった錚々たるアレンジャー陣が参加したセルフカバー・アルバム『逆輸入 ~港湾局~』と、デビュー15周年を迎えた去年から、これまでのあらゆる活動をくまなく整理総括していくような作品のリリースが続いている椎名林檎。
今回の『逆輸入 ~港湾局~』には、個人的に決定的な聴きどころがある。
それは栗山千明に2011年11月に提供した楽曲“青春の瞬き”。
東京事変のファンの中には、そのラストライブのアンコールラストから2曲目という重要な場面でこの曲が歌われたことを鮮烈に覚えている人も多いだろう。
以来、この曲は椎名林檎が東京事変という、彼女にとってのひとつの青春時代の終わりへの思いを提供曲の中に密かに綴った曲として語られることが多い。
実際、そうだったのかもしれない。
しかし今回、冨田恵一による、どこまでも緻密繊細で禁欲的なポップスアレンジによって、この曲から「東京事変の終焉」というサブストーリーが取り払われたことで、そのメロディと言葉、そして椎名林檎の歌が持つ、聴き手の人生のあらゆる場面に寄り添ってくれる普遍的な力が解放された。
きっとこれは音楽家・椎名林檎にとって、とても幸福な瞬間――そんな瞬間がこれからどんどん増えていくことを願ってやまない。(古河)