オススメの映画:脚本キム・ギドク『プンサンケ』
2012.06.15 22:07
去年の東京フィルメックスでも上映されていて、すごく気になっていた映画『プンサンケ』。
”プンサンケ”は”豊山犬”と表記される北朝鮮製の煙草の銘柄で、いつもこの煙草を吸っている男が主人公だからこのタイトル、基本的にはそういうことだと思う。
この映画、何でそんなに気になっていたのかって、脚本をキム・ギドクが書いているのだ。
しかも、その内容は実にセンセーショナル。
なにしろ主人公である正体不明の男は、38度線を何度も行き来し、日々死線をくぐりながら、離散家族のメッセージや亡命者そのものを運び屋なのだ。
必然的に、朝鮮半島の南北問題に(かなり暴力的に)切り込んでいく物語になるし、鬼才がこのテーマをわざわざ選んでいるだけあって、それはもう凄まじいまでのアイロニーが溢れ出している、まあ「言いたいことだらけ」な映画です。
いやね、本当にすごい映画だと思うんですよ。
何がすごいって、これが単なる「批判」じゃなく(仮にそうだとしてもめちゃくちゃ鋭い批判だけど)、あくまでも超級のサスペンスであり、高精度の密室スリラーでもあり、つまり最高のエンターテインメントであり、さらに言うと、年間通してもそうそう出会えないレベルのピュアラブストーリーでもあるんだから。
キム・ギドクって、考えること/しゃべること/書くことがすべて映画になってしまう人なんだと思う。明らかに「選ばれた」側の人。
監督はギドクの助監督をやっていたチョン・ジェホンで、まだまだキャリアは浅いけれど、そのうちとてつもない傑作を自力で撮る人だと思います。
公開はちょっと先で、8月18日。これははっきりオススメしたい。(小柳)