YOASOBI『THE BOOK』がエピローグで始まりプロローグで終わる理由

YOASOBI『THE BOOK』がエピローグで始まりプロローグで終わる理由
本日1月6日にリリースされたYOASOBI初のフィジカル作品となるEP『THE BOOK』のオープニングを飾るのは、いかにも美しいひとつの物語の幕が下りていくのを感じさせるインスト曲"Epilogue"。
続いて《明日世界は終わるんだって》という最も物語の始まりらしくないとも言えるフレーズを、イントロなし歌はじまりでいきなり投下する"アンコール"。
そして2019年末から2020年を通して僕らの耳をジャックし続けてきた名曲たちが連なり、すべてはここから始まったと言える1stデジタルシングルにして大ヒット曲"夜に駆ける"の後の余韻を締めるのは、いかにも未知の物語の幕が上がるのを感じさせるインスト曲"Prologue"。
もしかしたら曲順を逆に再生するのが正解なのかと勘ぐる気持ちも湧き上がる(実際にそれで聴いてみたら別の物語が感じられた)けれど、やはり曲順通りに聴くのが正しい物語なのだと感じた。
これは2020年の音楽シーンの道なき道を駆け抜けてきたYOASOBIの音楽が伝えるものが何であるかを見事に表現した完璧過ぎるストーリーだ。

改めて『THE BOOK』で感じたのは、YOASOBIの音楽はどこまでも不安定で決して希望には溢れていない、でも絶望と呼ぶにはあまりにも美しくて、見方を変えたら果てしなく自由が拡がる未来を舞台にした、全く新しいポップミュージックだということ。
最初に《明日世界は終わるんだって》が最も物語の始まりらしくないフレーズだと書いたけれど、それは最早あまり意味のなくなった常識の話で、今を生きる僕らにとって《明日世界は終わるんだって》ほど物語の始まりに相応しいフレーズはないとも言える。

物心ついた時から世界終末時計は残り10分を切っている世代で、それはグングン残り数分に迫っていると言われている中で、自分だけにできることとして音楽で物語を紡ぎ歌うということを一見冷静に、実は熱い想いを込めながら選んで今を生きている二人だから描ける未来。
その「未来」の誕生の物語が『THE BOOK』だ。
YOASOBIのポップミュージックが持っている可能性の果てしなさに思わず拍手をしたくなった。(古河晋)
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