peanut buttersのニューアルバム『peanut butters II』。誰にも言えない「ホントのところ」を彼らはポップに昇華する

peanut buttersのニューアルバム『peanut butters II』。誰にも言えない「ホントのところ」を彼らはポップに昇華する
ネガティブな言葉って、歳を重ねるにつれて吐き出しづらくなっている気がする。昔は口を開けば「眠い」「ダルい」「無理」「病んだ」「とにかく眠い」と意味もなく発していたものだが、いわゆる「いい大人」と言われる年齢に差し掛かると、嫌なことがあっても、周りの人のほうが頑張ってるからとか、弱音を吐いてみじめな思いをしたくないとか、ダサいと思われたくないとか、嫌われたくないとか、いろいろいろいろ考えてしまって、ほんの少しの気を許した人にしか本音を言えなくなってしまう。
別に、大人になったからといって嫌なことやつらいことが少なくなるわけではないのに。

もちろんすべての大人がそうだとは思っていない。
でも、上の文章を読んでちょっとでも共感してくれた人にこそ、peanut buttersを聴いてほしい。

peanut buttersは、コンポーザーである「ニシハラ」のソロプロジェクトで、ボーカルを含めたサポートメンバーを迎えて活動している。
11月15日にリリースされた2ndフルアルバム『peanut butters II』は、2022年4月の前ボーカル脱退を受けて同年8月にサポートボーカルとして穂ノ佳を迎えてからリリースした楽曲と、新たに書き下ろした楽曲をコンパイルした作品だ。

ニシハラの書く詞はちょっと心配になるくらいの人間臭さをストレートに表すが、それは今作も顕在。

《夕方僕はさ/耐えれないことばっか/もうこんなんじゃいけない/わかってんのにさ/何もしてないんだ》(“普通のロック”)

《ねえどんだけ/もう耐えたら、/あとはだりぃだりぃ/僕はどうすりゃいい》(“悪魔くん”)


《僕の世界は、ねえどうにかなるのか/僕はつらいな落ちこんで帰る》(“ジャスコ、上野”)

《暗くて冴えないよ/僕はかなり 無理をしてんだ》(“スーパーハイパー忍者手裏剣”)

《冴えてない/全部うっさい/耐えれない》(“ハルのテーマ”)

どう考えても人生は楽しいことよりつらいことのほうが多いし、なんとかしなきゃと思ってもそんなに簡単に変われないし、嫌なことはどうしたって嫌だ。あまり声高には言えない「ホントのところ」を、共感してもらおうとするでもなく、同情してもらおうとするでもなく、究極の独り言としてニシハラは世に放つ。

また、「寝る」という言葉が数多く登場するのも彼ならではの世界観だ。

《時間ないイエロー/しょうがない寝よ》(“Girl Is a Hard Rocker”)

《ウザイぜ、もうさ透けて見えてる/笑ってる悪意が/わかってる僕には/だからただ寝る》(“普通のロック”)

《明日で限界 アイムソーリー寝てたい》(“she so come!!!”)

《でも無理さ けど行くしかない/本当は寝てたい》(“るるるるくん”)

《部屋の中、こもってた/抜け出せず 終わりだった/もう、、、 さあ寝よう》(“ハルのテーマ”)……などなど。

「寝る」という行為は、現実から逃避するためのいちばんシンプルな手段だ。嫌なことばかり起きる現実と意識を切り離して夢の世界へ行くこと、それが彼にとっていちばんの癒やしなのかもしれない。

……と、歌詞だけに焦点を当てると重ために見えるのだが。再生ボタンを押したら驚くと思う。時にハードロック、時に歌謡曲などさまざまな匂いを感じさせながら、このアルバムは否応なしに心を躍らせる極上のポップスに仕上がっているのだ。内省的な歌詞とは裏腹に外側に開かれたメロディと、穂ノ佳の綿菓子のようなふわふわのハイトーンボイスが、心地良いバランスで楽曲をカラフルに彩っている。

辛いものと甘いものが無限ループできるように、このギャップが癖になって何度も何度も聴きたくなるのだ。

1stアルバム『peanut butters』に収録された“メロンD”の同僚?のような“スイカP”、ミドルテンポなロックナンバー“Peanut butter 2021”をEDMアレンジで魅せた“Peanut butter 2023 GIGA MAX”など、前作の延長線上に今のpeanut buttersがあるのだと感じられるのもいい。

背中を押してくれるわけでも、ましてや無理矢理にでも手を引っ張って別の場所へ連れて行ってくれるわけでもない。でもこの歌に身体を揺らし口ずさむことで、自分のドロドロの感情も一緒に吐き出せるのか、なぜか聴いたあとはちょっとスッキリする。
この不思議な体験をぜひ味わってみてほしい。(藤澤香菜)


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