マドンナが最強である理由


WOWOWで放送されたマドンナの最新ツアー『STICKY & SWEET TOUR』を録画していたので観る。

日本でも行われた前回のツアーが、マドンナによるダンサー・マドンナの再確認だったとすれば、
今回のツアーはストロングでダイレクトなメッセンジャーとしてのマドンナ、つまり、ロックだった。
ひと通り「観客が観たいマドンナ」が提供された後、マドンナが過去の「マドンナたち」をステージに登場させる。マリリン・モンローになりたかったマドンナ、マレーネ・デートリッヒになりたかったマドンナ……。マドンナはそれらの「ウォナビーたち」を次々に痛めつけ、ウィッグを剥ぎ取り、蹴飛ばしていく。そして、いよいよ今回のマドンナが始められるという段取りだ。
特に、「Like A Prayer」から「Ray Of Light」のくだりは、U2の十八番「Where The Streets Have No Name」を彷彿させる圧巻のクライマックスを実現していて目を見張る。
「Like A Prayer」では、ステージに覆面をつけたテロリストたちが登場し乱舞する。ビジョンいっぱいに世界中の言葉でメッセージが発信されていて、その中の日本語は「復讐してはいけない」とある。そして、その「祈り」はやがてゴスペルとなり、眩い光の中を「Ray Of Light」が始まるというものだ。
何度も言うけれど、これが世界でもっともポピュラーな、クイーン・オブ・ポップと称えられる彼女の、数万人のオーディエンスを前にしたパフォーマンスなのである。
演出も当たり前のように刷新されていて、2時間があっという間である。あのメモリアルでシンボリックなダンス・チューン、「Hung Up」まで超ロック・バージョンだった。

先日観たマイケル・ジャクソン『This Is It』の不満は、そこにあった。もちろんそれは「本番」ではないのだから、単純な比較などできないけれど、記録されていた「今回の演出」は、彼が舞台から遠ざかる前のものとほとんど変わらないもののように思えた。そしてそこに、(プライベートではなく)「アーティストとしてのマイケルの孤独」をどうしようもなく感じてしまったのだ。