1970年の5月8日に、ザ・ビートルズのラスト・アルバム『レット・イット・ビー』がリリースされた。ご存知のように、このアルバムが言葉本来の意味での「ラスト・アルバム」かというと、そうではない。4人が最後に集まってレコーディングした作品は『アビイ・ロード』で、それは1969年に発表されている。この『レット・イット・ビー』は、いわばお蔵入りしていたセッションであって、その音源に後からフィル・スペクターによるプロデュースを加えたかたちでリリースされたものである。
なぜそういうことが起こったかについては、乱暴に一言で言ってしまうと、バンドという思春期が終わろうとしていたらだというしかない。ザ・ビートルズとて、その摂理には勝てなかったのだ。ザ・ビートルズはバンドである幸福から個人である自由へと移行していた。その過渡期に、それでもなんとかザ・ビートルズはザ・ビートルズであろうとした、そんな試みと失敗と修復のさらなる失敗のようなものが『レット・イット・ビー』である。そう言ったら怒られそうだけど、そのようなものであったとしても、というか、そのようなものであるがゆえに、いっそうこの作品はかけがえのないザ・ビートルズ・アルバムだと言える。
昨年のリマスター・シリーズで変化してるかもしれないけれど、日本では長らくこのアルバムが一番売れていたはず。