2010年上半期私的ベスト・アルバム 8位

2010年上半期私的ベスト・アルバム 8位

!!!の『Strange Weather,Isn’t It?』を選出。

歌は、そこに積み込むことのできる物語や、記憶を幾度となく呼び覚ますことのできるメロディによって、時代を解きほぐし、そこに生きる者をともに歩ませ、前を向かせてくるものである。一方、ダンス・ミュージックは、その音楽そのもののタフネスによって、時代を突き抜けんとする、まさに身体的な命がけの跳躍である。どちらがより優れているという話ではない。どちらもわたしたちが現実と向き合ったときに、必然としてそこに求め、作り手であろうが受け手であろうがそれを担うものである。

!!!は、これまで自らの旺盛な雑食性を隠すことなく、この時代をサバイブするためのオルタナティヴなダンス・ミュージックを愚直に作り続けてきたバンドである。その作品群は、当時の彼らの置かれた状況を赤裸々に映し出してきたし、そこから彼らがどのような脱出を図ったかが圧倒的な熱量を持って主張されてきた。このニュー・アルバムにしても、その意味でいえばまったく変わりはない。!!!の表現は、たとえ今回、メンバーの相次ぐ脱退や元メンバーの急死といったドラマを経ていたとしても、構造としては同じである。

しかるに、ここに提出されたアルバムは、これまでの彼らからすれば驚くべき変貌を遂げている。ビートはカオティックに揺らぐことなく反復し、物理的に厳選せざるをえなくなった音数はそれぞれに粒立って、アルバム丸ごとがまるで1曲であるかのように研ぎ澄まされたファンクを鳴らしていく。それはもう、惚れ惚れするほどの音楽、である。

なぜそのようなことが可能となったのか。阿呆なような論で申し訳ないが、ダンス・ミュージックの洗練は必然としてそのような剛性へと向かうからだ。ダンス・ミュージックは、常にタフになることを自ら欲望するからだ。『Strange Weather,Isn’t It?』は、優れたダンス・ミュージック・アルバムにしか訪れない、そのような欲望の奇跡的な実体化であった。蛇足だが、その意味で、LCD Soundsystemの『This Is Happening』と好対照を成していた。
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