MGMTの『コングラチュレイションズ』を選出。
海外ではあまり評判のよろしくないこのセカンド・アルバムだが(というか、MGMTについては、特にアメリカのインディー愛好ブロガーからずっと格好の標的にされているフシがある。それと、ライブ・パフォーマンスがそれほど上手くない、というのもあるだろう)、おそらくそれは、「思ってもみなかったものが出てきた」ことに対する当惑なのではないかと思っている。ファースト・アルバムのフォーミュラをラジカルに捨て去ったこのセカンドは、だからこそ、彼らの切迫した冒険心が果敢に時代と向き合った果てに出てきた音だったことを、逆説的に物語っているとも言える。
1曲目の「It’s Working」から最終曲の「Congratulations」まで。あっという間の40分。性急な雑踏的イントロダクションから、気が付けば穏やかな砂浜に打ち揚げられていたかのようなこの作品は、まさにそのような「翻弄」がテーマだ。
その翻弄とは、ファースト・アルバムが異常に注目され、ロックンロール・ライフにさらされた、MGMT本人たちの「翻弄」を下敷きにしながらも、それが捕まえているパースはそんな俗っぽいエリアにとどまらない。というか、この「翻弄」が意味しているのは、わたしたちのいま、その生そのものである。
わたしたちはいま、何によって「生かされている」か。この現代はどう動いているのか。そのことを注視してみる時間と空間は、実はそれほどわたしたちには与えられていない。というか、そんなことも許さない速度と強度が現代であり、そこでの生はほとんど生かされているということだ。
MGMTは、その速度を自ら(更に)体感しようとした。MGMTは、その強度を自ら(更に)産出してみようとした。そんな現代の波に乗って、乗りこなすのか溺れるのか、だとしてもそこで見えてくる風景はどのようなものなのか。それをせめて見てみたい。だから、このアルバムには処理能力を超えた音楽と、ツイッターよりも高速な言葉が目まぐるしく飛び交っては消えていくのである。そんな勇敢な試みが、この『コングラチュレイションズ』である。