Best Coastの『Crazy For You』を選出。
なにか新しい音が鳴っているわけではない。なにか新しいメッセージが込められているわけではない。ただ、ひたすらに愛らしい。それが『Crazy For You』である。
しかし、今はそんなことが許されない時代である。強迫的な上昇志向が「レディー・ガガ」の名の下に煽り立てられる時代である。ただじっとしているだけで敗者と名指しされる時代である。
なのに、Best Coastは成立したのである。ただイノセントだったからでは決してなく、そのような時代においてこそ、頑なに守られた清らかさがあった。そこに奇跡があった。というか、それだけですでにそれは、抵抗であったのである。2010年に、これほどメロメロにされたアルバムはなかった。