ユニバーサルの火事でマスターテープが燃えてしまったアーティスト名約800発表される。悲しすぎる。

ユニバーサルの火事でマスターテープが燃えてしまったアーティスト名約800発表される。悲しすぎる。

「The New York Times Magazine」が「音楽史上最悪の損害」と書いた衝撃の記事で明らかになった、ユニバーサルミュージックの火事によりマスターテープ約50万曲分が燃えてしまった事件。
https://www.nytimes.com/2019/06/11/magazine/universal-fire-master-recordings.html

あまりの怒りと悲しみで、心が張り裂けそうになる記事だったが、今日新たなに具体的にどのアーティストのマスターテープが燃えてしまったのか、ユニバーサルが社内で作っていたリストで明らかになった。そこには約800のアーティスト名が記載されており、アレサ・フランクリン、ジョン・コルトレーンなどから、ニール・ヤングザ・フートム・ペティガンズ・アンド・ローゼズR.E.M.ニルヴァーナ、NIN、エミネムなど、重要文化財とすら言える音楽の歴史、カルチャーの歴史において最重要なアーティストが多く含まれている。本当に何でこんな大事なものがしっかりと保管されていなかったんだろうと怒り心頭する。

リストは以下の記事の中で見られる。ほとんど何かの事故で亡くなった人のリストを見ているような気分になる。
https://www.nytimes.com/2019/06/25/magazine/universal-music-fire-bands-list-umg.html

今回アーティスト名が分かったのは、ユニバーサルが社内で「プロジェクト・フェニックス」というリストを作っていたから。マスターが燃えてしまったアーティスト名を書き出して、歴史的に最重要なアーティストとスーパースター、またそれ以外の最重要とは言えないアーティストをAかBかで仕分けしていたというのだ。その仕分け順に、その他の場所に保管してあったテープなどを見つけ出し、なんとかリカバリーできないかと工作していたそう。しかし、資金があまりにかかりすぎる、または不可能だと分かって数年で挫折している。

今回新たに掲載された記事によると、例えばブライアン・アダムスは、『レックレス』30周年記念盤を発売したくて、ユニバーサルにマスターテープ、および当時のアートワークなどを入手したいとリクエストしたそう。しかし、何も出て来なかったという。火事だということはまったく知らされなかったため、何もないのはおかしいと思って、当時関わった人、スタジオなど、すべての人に聞いたが、見つからなかったという。NYタイムズの記事で火事だったことを初めて知ったそうだ。

NYタイムズで記事が掲載された後、ホール、サウンドガーデン、トム・ペティ、2パック、スティーヴ・アールがユニバーサルを相手取り、1億ドルを請求する訴訟を起こしている。

個人的に一番悲しかったのは、ニルヴァーナのクリス・ノヴォセリックが、ファンに『ネヴァーマインド』や、『イン・ユーテロ』のマスターテープは大丈夫なのか訊かれて、「すべて永遠になくなってしまったと思うよ」とツイートしていたこと。


『ネヴァーマインド』のマスターテープがなくなるってどういうことなんだろう?? 絶対燃えない箱に入れて保管しておかないのだろうか?

他の形で残っていたとしても、マスターテープが最高の形であることは間違いないし、何が悲しいかって、アルバムとして発売されたもの以外が何か絶対にあるはずだということ。それが何だったのかは、恐らくしっかり記録されていないだろうし、もう誰も二度と分からないだろう。

例えばこの間レディオヘッドのデモテープなどが18本分販売された。あれはマスターテープではないが、内容は最高だった。燃えてしまったものの中には、ジョン・コルトレーンのデモテープなどがあったかもしれなくて、それはクリスの言うように永遠になくなってしまったのだ。

エリック・クラプトンボブ・ディランのドキュメンタリー映画が公開された時に、監督が口を揃えて言っていたのだが、未公開映像が何十年ぶりに発掘されて映画で上映されたりするのは、たいてい、倉庫での保管が悪く、ラベルなどデタラメなので、どこに何があるのかまるで分からないからだという。それを数年がかりで丁寧に1本1本見て調べていった結果、偶然貴重な映像を見つけたりして、未公開映像が見られたりするわけだ。つまり、どれだけ貴重な音源がなくなってしまったのか、恐らくすべて把握もできない。

NYタイムズの記事の後、ユニバーサルは社員に「アーティストに対する透明性が大事だ」という文書を配布している。

また、ある記事によると、例えアーティストが損害賠償請求をしようとしても、マスターテープはアーティストのものではなくて、レーベルのものなので、請求できない可能性があるとも分析していた。少し意図は違うかもしれないが、プリンスが生前「マスター(テープ)を自分で所有していなかったら、マスター(雇い主)に所有される」と言っていたのが思い出される。

メトロポリタン美術館が燃えてしまったようなもの。あまりに落ち込む事件だ。
中村明美の「ニューヨーク通信」の最新記事
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