あるコミック本の映画化で監督にインタビューした時に、「インディ映画では、無理だったけど、今回は超大作なので、自分が子供の時から好きだったロック・ヒーロー達の曲がふんだんに使える」と嬉しそうに語っていたのが印象的だった。ザ・ビートルズやレッド・ツェッペリンなどのオリジナル曲を映画で使おうとすると、まず許可がなかなか下りないし、下りても使用料が高額で払えない。
それなのに、今回トロント映画祭で上映された制作費約10億円の低予算映画『The Friend』で、レッド・ツェッペリンの“Rumble On”と“Going to California”の2曲が使われていた。
「Deadline」によると、普通はまず著作権を持っているWarner/Chappelに聞き、もし許可が降りたら、そこから5日以内に支払いをしなくてはいけないそう。ツェッペリンなら、通常であればその使用料はおそらくこの映画の制作費の3分1くらいだろう、と。つまり約10億円の制作費なので、2曲で3.3億円。1曲1.6億円くらいだろうか?
上映後にQ&Aがあり、観客からそれについて質問が出て監督が答えていた。
監督のGabriela Cowperthwaite曰く、バンドから正式に許可が下りたのは「(トロント映画祭でのプレミアが行われている)今から約1週間前で、映画祭に映画を提出する締め切りのわずか3時間前だった(笑)」ということ。「だから今ここにいなかった可能性もあった!(笑)」と。
「レッド・ツェッペリンの曲を使うのはものすごく重要だった。それは、ニコールにとってレッド・ツェッペリンが大事なバンドで、彼女が一番好きなバンドだったから」ともコメント。
ニコールというのは、この映画の主人公で、ダコタ・ジョンソンが演じる実在の人物を元にしたキャラクターだ。彼女が36歳で卵巣がんになり亡くなるまで、2人の小さな娘と夫(ケイシー・アフレック)のために、友人(ジェイソン・シーゲル)が彼らの家に住み込み助ける、という内容だ。ジャーナリストである夫は、この手記をエスクワイア誌で発表し、それが今回映画化された。
「レッド・ツェッペリンの曲が使われるというのは、私が1年半前に読んだ脚本の初稿から書かれていた。だからなんとしても使いたいと思った。だけど、普通だったらまず絶対に使えないし、映画での使用許可を取るのはすごくすごく難しい。取れたとしてもこの小さな映画の制作費で使用料を払うのは不可能。だから、私達は気持ちを伝えてお願いするしかないと思った。
それで(エグゼクティブ・プロデューサーの)リドリー・スコットとプロデューサーと一緒にメンバーへ直接手紙を書いた。このキャラクターのDNAの中に組み込まれているほど、この映画にとって(ツェッペリンの曲が)大事であること、だから曲はしっかりと長く使うことも伝えた。そしたら、ジミー・ペイジ以外からは返事が来た。彼が手紙をチェックしていないのか何なのかは分からなかったけど。ロバート・プラントからはすぐに返事が来た。
ロバート・プラントは映画を観てすぐに連絡をくれて、『観るのが辛い作品だったけど、ものすごく美しいしパワフルな映画だ』と言ってくれた。映画を祝福してくれたとともに、『2曲の使われ方も胸に刺さるし、繊細で美しい』と言ってくれた。
その返事がバンド全員を代表してのものだったかどうかは定かではなかったんだけど(笑)、私の中では、きっとロバート・プラントがジミー・ペイジを招待してプライベート・スクリーニングで一緒に映画を観たんだろうと思うようにしたの(笑)。
でもその許可が届いたのは、本当にギリギリだった(笑)。トロント映画祭に映画を送らなくてはいけない、わずか3時間前だった(笑)。だから今ここにいない可能性も大いにあった(笑)」
映画は悲痛な物語の中で、家族や子供達を助け、笑わせたりするジェイソンの演技が光っている。夫が妻の闘病記について手記を書き始めて、結局それがその友達についてのものになったというのも納得する。ちなみに、笑いの部分では、カーリー・レイ・ジェプセンの“Call Me Maybe”も大事な役割を担っている。
昨今『イエスタデイ』しかり、ブルース・スプリングスティーンの曲をふんだんに使った『Blinded by The Light』など絶対に使用料が高いはずの曲を使ったインディ映画がいくつかある。その経緯などすでにインタビューで訊いたりしているので、いつか紹介したいと思う。
『The Friend』の日本公開は未定。