私は残念ながら観てないのだけど、日本でも6月12日にNetflixで配信が開始するスパイク・リーの新作『ザ・ファイブ・ブラッズ』のレビューが解禁となり、今ざざっと読んだところ、どれも絶賛している。ローリング・ストーン誌もガーディアン紙も満点評価。NYタイムズ紙も高評価だ。
現在アメリカではBlack Lives Matterムーブメントが再び加熱しているが、その最中にあって、「タイムリーでパワフル」と書かれている。また、チャドウィック・ボーズマンなどが出演しているが、デルロイ・リンドーの演技が素晴らしいらしく、どのレビューもすでにアカデミー賞候補と書いているくらい。
NYタイムズ紙も、そのタイトルは「ベトナムにおいても、Black Lives Matter(黒人の命は大事)」で、レビューの最後は、デルロイ・リンドーの演じる「ポールの痛みこそが、物語の機動力であり、物語のモラルである。彼はこの映画のヒーローではないが、彼こそがこの映画を観る理由だ」と締めくくられているくらいだ。
https://www.nytimes.com/2020/06/10/movies/da-5-bloods-review.html
予告編はこちら。
物語は、スパイク・リー曰く「4人のベトナム帰還兵が、チャドウィック・ボーズマン演じるノーマン隊長の遺骨を回収するべくベトナムに向かう。ここでの注目点は、埋蔵金も回収しようとしていること(笑)」
ローリング・ストーン誌は、「精神的にダメージを受けた4人のアフリカン・アメリカンのベトナム帰還兵が、トランプ政権時代にベトナムに戻り、亡くなった隊長を発掘することで、昔の自分も掘り起こす。この作品は、大変革といえる映画であり、彼(スパイク・リー)は、キャリアの新しいピークを迎えている」とまで書いている。
音楽を手がけるのは彼の作品の常連であるテレンス・ブランチャード。金曜日の配信が楽しみだ。
スパイク・リーは、去年、『ブラック・クランズマン』の脚色賞で初のオスカーを受賞。授賞式の際に、「もう明日にはベトナムに行くんだ」と言っていたのが印象的だった。また、今年本来だったら黒人として初のカンヌ国際映画祭審査員長を務めることになっていた。が、カンヌはコロナ禍で今年は行なわれないことになった。
最近では、ジョージ・フロイドの死を受けて“3 Brothers”という短編を発表している。3分30秒あたりから始まる。
インタビューの中では、この短編で描いた繰り返される警察による黒人の殺害を語り、現大統領に関して厳しい批判をしている。
この短編は、『ドゥ・ザ・ライト・シング』に登場するラジオ・ラヒームと、2014年にNYで警察に窒息死させられたエリック・ガーナー、そして今回のジョージ・フロイドの映像がシンクロしていく。
スパイク・リーは次のように語っている。
ラジオ・ラヒームというのは、1989年の映画『ドゥ・ザ・ライト・シング』に登場したフィクションのキャラクターだ。だけど、彼の殺害は、実在したマイケル・スチュワートの殺害を元にしたものだったんだ。彼はNYのグラフィティ・アーティストだったんだが、1983年、NY警察が地下鉄で彼に飛び乗り、締め付けて危篤となり亡くなった。それがアイディアの元だったんだ。バスキアの友達でもあった人だ。
エリック・ガーナーを見た時に、これはマイケル・スチュワートを元にしたラジオ・ラヒームだと思ったんだ。それで、今回我々のブラザー、“キング”・フロイドを見た時に、彼は、エリック・ガーナーに何が起きたのか分かってると思った。彼は自分が窒息している時にそれが見えていたと思ったんだ。
さらに「コロナ禍で外出を自粛していたが、NYで行なわれているプロテストをマスクをして見に行ったら、白人の若い世代が大勢いるのを見た」と感動している。また「ジョージ・フロイドの恐ろしい殺害を目撃して世界中の人達が結集していることに熱狂している」とも。「みんな投票してくれるんじゃないかと思う。みんながエージェント・オレンジ(現大統領のこと)にノーだ。お前はもうどっか行け、とね。それが俺の希望だ」と。
こうも語っている。
オバマ大統領は、この選挙はアメリカの歴史で一番大事だと言っていたが、俺は、オバマ大統領よりさらに上をいって、この大統領選は、現代の歴史で最も大事なものになると思っている。これはあくまで俺の意見だが、こいつが再選したら世界は危機に陥るから。何しろ彼はピースフルなアメリカ市民に軍を出動させると言った人だ。狂ってるよ。
時に彼は口を噤むべきなんだ。だって「ジョージ・フロイドが天国から我々を見下ろしている。これはアメリカにとって偉大な日だ」って言ったんだよ!?!? 何も言うなよ! 俺たちのブラザーについて語るべきじゃない!
現在63歳だが、「もう40年間も監督を続けている」と元気に語っている。
ちなみにスパイク・リーは1619と書かれた帽子を被っているが、去年NYタイムズ紙も「The 1619プロジェクト」という記事を発表し大センセーションを巻き起こし、今年はピューリッツァー賞を受賞した。1619年というのは、初めてアメリカに黒人が奴隷として連れて来られた年で、それを基準にアメリカの歴史を語るという試みだった。去年はそれから400年にあたる。現在行なわれているプロテストにおいても、「400年!」というチャントも大きく響きわたっている。